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熱赤外カメラTIRIが二重小惑星を熱撮像、前身TIRの便は153回中97回目

・打ち上げ日和 編集部 ・約16分で読めます

ESAのHeraが11月4日に二重小惑星系へ到着し、JAXAの熱赤外カメラTIRIが10月31日20時19分52秒に距離57kmから熱撮像。前身TIRを運んだ便は当サイト集計の国内153回中97回目で、Hera本体はこの153回に入らない。

宇宙・ロケット産業を追っている人むけ。数字と一次情報で書いています。

移動発射台に載って射点へ運ばれるH-IIAロケット。周囲に整備塔と作業車両が見える
射点へ機体を運ぶH-IIAロケット(2014年2月27日・種子島宇宙センター)。写っているのは同じ2014年の国内1回目・全球降水観測計画GPMの打ち上げ前日の姿で、TIRを載せた「はやぶさ2」の便(同年12月3日・H-IIAロケット26号機)ではないBill Ingalls(NASA) / パブリックドメイン / 出典

宇宙科学研究所(宇宙研)は2026年11月6日、ESA(欧州宇宙機関)の二重小惑星探査機Heraに載るJAXA開発の熱赤外カメラTIRIが、小惑星Didymosとその衛星Dimorphosを熱で撮った初期観測画像をウェブリリースで公開しました。撮像は2026年10月31日20時19分52秒(日本時間)、二重小惑星系からの距離は57kmです。

Heraは日本のロケットで上がった探査機ではありません。2024年10月7日(日本時間)にケープカナベラル宇宙軍基地からSpaceXのFalcon 9で打ち上げられ、2026年11月4日(日本時間)に二重小惑星系へ到着しています。打ち上げから到着までは758日です(どちらも日付だけが公表されているので、当サイトで暦日の差を取りました)。

この記事でやることは2つです。1つは、TIRIが何をどう撮ったのかを一次情報の記述のまま並べること。もう1つは、TIRIの前身にあたる「はやぶさ2」の中間赤外カメラTIR(ティーアイアール)を運んだ便が、当サイトが数えている国内4射場の打ち上げ153回のうち通算97回目にあたること、そしてTIRIを運んだHeraの打ち上げはその153回のどこにも入らないことです。日本製の観測機器が小惑星を撮っても、当サイトの打ち上げ集計には1回も現れません。その境界を数字で示します。

上の写真は種子島宇宙センターで射点へ運ばれるH-IIAロケットで、2014年2月27日の撮影です。TIRを載せた「はやぶさ2」の便(同年12月3日・26号機)ではなく、同じ2014年の国内1回目にあたる全球降水観測計画GPMの打ち上げ前日の姿です。TIRIが載っているHera、Didymos、Dimorphos、そして図1〜図3の実写は、当サイトが商用利用の条件を確認できている画像のプールにありません。ESA・JAXAの図は当サイトでは使わず、出典のリンクから直接見てください。

11月6日の発表の中身: 10月31日20時19分52秒、57kmから二重小惑星を熱撮像

ウェブリリースの核心はこの1文です。

図1に、2026年10月31日20:19:52 (JST)に二重小惑星系から距離57kmにおいてTIRIによって撮像された小惑星Didymosと衛星Dimorphosを示します。TIRIは、波長8-14ミクロンの熱赤外線を観測するため、天体表面の温度に応じて画像の輝度値(DN値)が変化します。 (宇宙科学研究所 ウェブリリース 2026年11月6日)

公開されたのは3点です。一次情報の記述だけを表に移します。

図撮像(日本時間)距離カメラ中身
図12026年10月31日20時19分52秒57kmTIRI(熱赤外)DidymosとDimorphos。上がDN値、下が温度変換画像
図2記載なし60kmAFC(可視・モノクロ)「ほぼ同じジオメトリ」の1枚。元画像はESAの記事
図32026年10月28日19時20分27秒〜29日0時29分01秒記載なしTIRI二重小惑星系の運動。3×3ビニング処理

図3の撮像区間は当サイトの計算で5時間8分34秒です。Didymosの自転周期は2.26時間なので、この長さは2自転分を超えます(自転周期はHera-JAPANの11月2日の記事の記述です)。

撮像時点の環境についても数字が1つ出ています。「このときの二重小惑星系の太陽からの距離は約1.2 au」で、出典はauに「天文単位=太陽と地球の平均距離で約1.5億km」と注を付けています。

温度の数値は出ていません。出典は変換の筋道だけを書いています。

この結果を、地上での校正試験から得られた変換式を用いることで、輝度値(DN値)を温度に変換することができます。このときの二重小惑星系の太陽からの距離は約1.2 au (au:天文単位=太陽と地球の平均距離で約1.5億km)で、小惑星Didymosの表面の温度は、現在解析中です。 (同)

熱で見るから夜の側も写る: 可視カメラが三日月に写した同じ相手を

同じ発表には、同じ相手をほぼ同じ位置関係から可視カメラで撮った図2が並べてあります。対比がそのまま書かれています。

この時の太陽位相角(太陽―小惑星―探査機のなす角)は約45°であるため、小惑星の太陽側の表面だけが観測できていることがわかります。衛星Dimorphosは三日月のように細く見えます。一方、TIRIは太陽が当たっていない夜の側の小惑星表面の様子を観測することができます。 (同。「Dimorphos」の全角のDは原文のまま)

太陽位相角とは、上の引用にある通り「太陽―小惑星―探査機のなす角」です。これが約45°あると、探査機から見える面のうち日が当たっているのは一部だけになります。可視カメラは反射した太陽光を見るので、日が当たっていない側は写りません。熱赤外カメラは天体そのものが出す熱を見るので、夜の側も写ります。

ここで、図1の見え方には出典自身が注意を付けています。

図1では衛星Dimorphosの表面の温度は相対的に低く見えますが、一部が小惑星Didymosの日陰に入っているためです。 (同)

つまり図1でDimorphosが暗いのは、Dimorphosが本質的に冷たいからではありません。影に入っていた分です。表面の性質の話と、そのときの日照の話を混ぜない、という断り書きです。

影に入ったDimorphosが冷えていく: 可視では撮れない、物性推定のための観測

図3の説明が、今回いちばん踏み込んでいる部分です。

動画では、DimorphosがDidymosの陰に入った瞬間、Dimorphosの温度が低下する様子がわかります。これは、可視カメラでは観測することができない様子であり、Dimorphos の物性推定において重要な観測に成功しました。 (同)

なぜ温度の時間変化が物性の話になるのかも、同じ発表に書かれています。

この温度の時系列変化から、天体表面の熱慣性(※温まりやすさ・冷めやすさを表す指標)を推定することができ、更に熱慣性から天体表面の物理状態(砂か岩塊か)や空隙率を推定することができます。 (同)

Heraがここへ何を確かめに来たのかは、宇宙研のHeraミッションページに書かれています。NASAの探査機DARTは2022年9月26日に秒速約6kmでDimorphosへ衝突し、同ページによると公転周期は「11時間55分から11時間23分へと32分も短縮」されました。ただしこれはDARTの結果で、Heraはこれから確かめる側です。同ページは「探査機衝突による軌道修正の効果を正確に評価するためには、より正確な調査が必要です」と続けています。衝突で軌道がどれだけ動くかは天体の密度や硬さで変わる、というのがHeraが物性を測りに行った理由です。

開発側のコメントも逐語で引きます。

「はやぶさ2」中間赤外カメラTIRでのリュウグウやトリフネの熱撮像に続いて、2020年からHera用に開発してきた熱赤外カメラTIRIで再び小惑星の観測がついに始まることに感激するとともに、ご協力やご支援を頂いた全ての方に感謝を表したいです。 (宇宙科学研究所太陽系科学研究系 准教授/Hera所内プロジェクトチーム長 岡田達明 コメント)

Heraはこのあと、Didymos から距離 20 - 30 km まで接近し、詳細な観測を開始します。 (同 特任助教/Hera所内プロジェクトチーム員 坂谷尚哉 コメント)

TIRからTIRIへ: 画素9.67倍・角分解能3.85倍、作ったのはNECから明星電気へ

2026年11月2日版のプレスキットは7ページを丸ごと「熱赤外カメラ: 「はやぶさ2」から「Hera」へ」に当てていて、2台の仕様表を並べています。TIRには「史上初の小惑星探査用熱赤外カメラ」、TIRIには「より高解像度、多バンドへ高性能化」という見出しが付いています。表の値をそのまま写します。

項目TIR(はやぶさ2)TIRI(Hera)
検出器(非冷却ボロメータ)NEC-320ALynred PICO1024 Gen2
画素数328 x 2481024 x 768
観測波長8-12 µm8-14 µm + 6 狭帯域バンド
視野角16 x 12 deg13.0 x 9.9 deg
画素分解能0.05 deg/pix0.013 deg/pix
観測温度範囲150-400 K150-450 K
雑音等価温度差(@300K)約0.3 K0.1 K未満
AD変換階調14 bit14 bit
開発メーカNEC明星電気

TIRI側には機器の実体の数字も付いています。機器寸法は本体がW180 x D150 x H250 mm、包絡がW230 x D190 x H260 mm、機器重量3.94kg、消費電力16Wです(TIR側にはこの3項目の記載がありません)。雑音等価温度差はプレスキットの表記が「~0.3」「<0.1」で、当サイトで「約0.3」「0.1未満」と書き換えています。

この表から当サイトで割った比が次の3つです。プレスキットに倍率は書かれていません。

比べたもの計算結果
画素数1,024×768=786,432 ÷(328×248=81,344)9.67倍
角分解能(1画素が見る角度)0.05 ÷ 0.0133.85倍細かい
視野角(面積)13.0×9.9=128.7 ÷(16×12=192)0.67倍(狭くなる)

細かく見えるようになった分、一度に見える範囲は狭くなっています。それでも二重小惑星系は視野に収まる設計で、Hera-JAPANの11月2日の記事は、上空8-20kmまで降りる詳細全球観測フェーズについて「TIRIでは両小惑星を同時に視野内に含む」と書いています。

搭載に至る経緯もプレスキット18ページにあります。

2019年11月のHera全体会議にて、追加搭載機器の候補として「はやぶさ2」での成功が評価された結果、熱赤外カメラの日本からの提供の可能性についてESAからISASに打診があった。 (Hera Press Kit 2026年11月2日版 18ページ)

合意は「2021年2月、JAXA-ESA間でHeraに熱赤外カメラTIRIを搭載することで合意した」と記されています。開発メーカがNECから明星電気へ替わっていることは表から読み取れますが、替わった理由や経緯を書いた一次資料は当サイトは見ていないので、理由は書きません。

TIRを運んだ便は当サイト集計153回の97回目、TIRI本体は153回に入らない

ここから当サイトの集計です。TIRIの前身TIRは、「はやぶさ2」の主要ミッション機器のひとつ「中間赤外カメラ」として種子島から上がりました。宇宙研のミッションページの諸元と、当サイトのLL2スナップショットを突き合わせます。

項目値
便「はやぶさ2」(H-IIAロケット26号機・種子島宇宙センター)
打上げ日時(日本時間)2014年12月3日13時22分04秒
当サイト集計での通算153回のうち 97回目
軌道投入便だけで数えても146回のうち 97回目
2014年の国内打ち上げ4回(成功4・失敗0)。初回は2月28日3時37分のGPM、最終回がこの便

97回目の出し方は前提のとおりで、年別の表を年の昇順に足すと2013年までで93回、2014年の4回を足して97回です。2014年の最終便の時刻が13時22分04秒で、ミッションページの打上げ時刻と秒まで一致するので、この年の4回目が「はやぶさ2」の便だと確定できます。

当サイトはいつも「153回には弾道飛行が入っている/軌道投入便だけなら146回」という但し書きを付けています。ところが今回は、どちらの母数で数えても97回目です。弾道飛行7回はすべて北海道スペースポートからのもので、最初が2017年7月30日。スペースポート紀伊の最初は2024年3月13日です。2014年以前に弾道飛行は1回も登録されていないので、2014年までの累計は153回側と146回側で同じ値になります。母数の取り違えが起きない、珍しいケースです。

母数そのものの作り方は9月5日の記事(国内4射場の打ち上げ152回を数えた)に書いています。その後1回増えて、いまのスナップショットでは153回です。153回目は10月20日4時41分03秒に上がったMMXの便です。

そして、TIRIを運んだHeraの打ち上げは、この153回のどこにも出てきません。ケープカナベラル宇宙軍基地からFalcon 9で上がった便だからです。当サイトの集計対象は国内4射場だけで、海外の射場は範囲の外です。日本が開発した熱赤外カメラが小惑星を撮った今回の発表は、当サイトの打ち上げ集計をどう眺めても1行も動きません。

TIRを運んだ便の離陸(2014年12月3日13時22分04秒)から、今回の熱撮像(2026年10月31日20時19分52秒)までは、当サイトの計算で 4,350日 です。日本製の小惑星用熱赤外カメラが、国内の射場から出た1回と、国外の射場から出た1回とで、12年近く離れて並んでいます。

これから: 20〜30kmのECPは約4週間、ESAの詳細画像は11月25日、同設計のもう1台はRAMSESへ

Hera-JAPANが11月2日に出した運用計画(表1)は6行です。11月2日時点の予定として、そのまま引きます。

年月(日本時間)フェーズ小惑星からの距離観測計画
2026年11月4日到着・初期全球観測フェーズ(ECP)開始・約4週間20-30km質量、形状、公転・自転運動をAFC、HS-H、TIRIで同時観測
2026年12月2日詳細全球観測フェーズ(DCP)開始・約6週間8-20km表層地形・内部構造・物性計測のための観測
2027年1月13日2機の子機分離運用フェーズ(PDP)開始20-30kmJuventas(1月16日)分離、Milani(1月30日)分離
2027年2月3日接近観測フェーズ(COP)開始・約12週間4-22kmDART衝突で形成された人工クレータ観測、低高度からの詳細地形観測など
2027年4月28日実験運用フェーズ(EXP)開始・約5週間最接近距離2km以下クレータの詳細観測
2027年6月ノミナル運用終了未定未定(延長運用(EXT)の実施は未定)

いま動いているECPでは、TIRIに固有の役割が1つ書かれています。「飛行経路上からの全機器同時の定期観測(15~20分毎)で両小惑星の全球を観測するほか、TIRIは自転速度の速いDidymos(自転周期2.26時間)の1自転分の連写観測を実施します」。探査機は2週間で1周する3対4の長方形の経路を飛び、1日に2回ほど姿勢を変えてアンテナを地球へ向け、データを送ります。

初期観測の成果発表の日も決まっています。「Hera探査機の初期観測成果は、11月25日(JST)にドイツのベルリンで開催されるESA主催のHera到着イベントで発表される予定です」。この記事の日付からは18日後です。ESAの記事も、両小惑星の詳細画像を11月25日に公開すると書いています。

最後に、日本側の続きの話です。Hera-JAPANは10月15日に、TIRIのフライトスペア(予備機)の行き先を公表しました。

当初、FSはフライト中のPFMの地上検証用として使用する予定でしたが、欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの共同ミッションである小惑星アポフィス探査ミッションRAMSESに提供して、国際的なプラネタリーディフェンス活動に貢献することになりました。 (Hera-JAPAN 2026年10月15日)

FSは2026年9月に製造と環境試験を終えていて、「Hera探査機に搭載されたPFMと同じ設計です」と書かれています。今後ESAの欧州宇宙技術研究センター(ESTEC)へ輸送され、RAMSES探査機との総合試験に参加する予定です。宇宙研のRAMSESページによると、日本が出すのは薄膜軽量太陽電池パドル(SAWs)・TIRI・H3による打上げ機会の3アイテムで、「観測機器に加えてバス機器・打上げ手段という重要な3要素に亘る連携は、初の試みです」としています。RAMSESの中身とDESTINY+との相乗りについては10月16日の記事(アポフィス探査機RAMSESが初通電)に書いたので、ここでは繰り返しません。

その打ち上げ予定の現在地だけ、数字で置いておきます。当サイトの予定表(日本時間11月7日4時47分のキャッシュ・15件)には H3-24 | DESTINY+ & RAMSES が入っていて、NET(最短で上がりうる日)は2028年4月20日、精度は「日」、状態は「日付未定(To Be Determined)」です。この日付を打ち上げ日として扱うことはできません。 一次資料の側は「2028年度」までしか言っていません。参考に、この機体形態H3-24の実績は当サイト集計で2回(2回とも成功、2025年10月26日と2026年10月20日)です。今日からNETの日付までは530日あります。

日本製の熱赤外カメラは、いま二重小惑星の夜側を撮っています。同じ設計のもう1台が小惑星アポフィスへ向かうなら、その便は種子島から上がり、当サイトの153回の続きに入ります。