火星衛星探査機MMXは2026年10月20日4時41分03秒に種子島からH3ロケット10号機で上がり、翌21日14時にJAXAが「初期クリティカル運用フェーズ終了」を発表しました。打ち上げから発表まで1日9時間19分です。過去の宇宙研(JAXA宇宙科学研究所)の探査機・科学衛星でも同じ種類の発表が出ているので、当サイトが見つけられた5機の同じ発表を並べ、打ち上げから発表までの経過時間を当サイトで計算しました。
結論を先に書くと、比較できた6機のうち発表までの経過時間が最も短いのはMMXで、次がはやぶさ2の1日22時間08分、最も長いのはあらせの33日22時間00分でした。ただし、この日数は「クリティカル運用」に何を入れたかで変わるもので、運用の速さの比較にはなりません。本稿はその理由も各リリースの原文で示します。
JAXAは10月21日14時、打ち上げから1日9時間19分で「初期クリティカル運用フェーズ終了」を出した
JAXAの10月21日付リリースの本文は短く、中心は次の1文です。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、10月20日に打ち上げられた火星衛星探査機(MMX)について、初期運用における重要なシーケンスが正常に実施され、探査機の健全性が確保されたことを、本日10月21日に確認しました。これにより、初期クリティカル運用フェーズを終了します。 (JAXA「火星衛星探査機(MMX)の初期クリティカル運用フェーズ終了」・2026年10月21日)
「初期クリティカル運用フェーズ」が何を指すかは、本文ではなく注釈※1に書かれています。「ロケットから探査機が分離した後、太陽電池パドル展開、三軸姿勢確立、ミドルゲインアンテナ(MGA)保持解放など、探査機の一連の健全性を確立するまでの期間。」です。続く段落は「今後、探査機搭載機器の初期機能確認を実施しつつ、火星圏への往路巡行運用フェーズに向けた準備を行う予定です。」で、そのあとは関係各方面への謝意の1段落で本文が終わります。
この発表の事実そのものは、9月25日の記事と10月20日の記事に段落として入れています。打ち上げの経過は10月21日の記事に書きました。本稿が足すのは、この発表を過去の同種リリースと並べたときの位置です。
経過時間の計算は、打上げ結果リリースの「4時41分03秒」と、2026年プレスリリース一覧に載る発表時刻「14:00」の差です。10月20日4時41分03秒から10月21日4時41分03秒で1日、そこから14時00分まで9時間18分57秒で、合わせて1日9時間19分になります。
同種の発表がある宇宙研6機を並べると、1日22時間から33日22時間まで幅がある
JAXAの機体別プレスリリース一覧と2026年一覧で「クリティカル運用期間の終了について」または「初期クリティカル運用フェーズ終了」の表題を見つけられた機体は、MMXを含めて6機でした。打ち上げ時刻と発表日時はいずれもJAXAのリリースと一覧の表記で、経過時間だけが当サイトの計算です。
| 機体 | 打ち上げ(JST) | 終了リリース発表(JST) | 経過(当サイト計算) | ロケット |
|---|---|---|---|---|
| MMX | 2026-10-20 04:41:03 | 2026-10-21 14:00 | 1日9時間19分 | H3 10号機 |
| はやぶさ2 | 2014-12-03 13:22:04 | 2014-12-05 11:30 | 1日22時間08分 | H-IIA 26号機 |
| XRISM | 2023-09-07 08:42:11 | 2023-09-11 10:30 | 4日1時間48分 | H-IIA 47号機 |
| SLIM | 2023-09-07 08:42:11 | 2023-09-14 15:00 | 7日6時間18分 | H-IIA 47号機 |
| ひとみ(ASTRO-H) | 2016-02-17 17:45:00 | 2016-02-29 13:00 | 11日19時間15分 | H-IIA 30号機 |
| あらせ(ERG) | 2016-12-20 20:00:00 | 2017-01-23 18:00 | 33日22時間00分 | イプシロン2号機 |
母数は、JAXAの機体別一覧(はやぶさ2・惑星探査・ASTRO-H・ERG)と2026年一覧で当サイトが見つけた6機(2014年12月〜2026年10月)です。網羅ではありません。惑星探査の一覧で「クリティカル」を表題に含むリリースはSLIMの1件だけで、はやぶさ2・ひとみ・あらせはそれぞれの機体別一覧から拾いました。
6機のうち、打ち上げから2日未満で発表が出たのはMMXとはやぶさ2の2機です。残る4機は4日から33日22時間の間に散らばっています。ひとみの11日19時間15分は2016年がうるう年で2月29日があることを含めた値、あらせの33日22時間00分は年をまたいだ値です。
6機を運んだ便は5便で、XRISMとSLIMは同じH-IIA 47号機に相乗りしていました。機体の系列でいうと、H3がMMXの1機、H-IIAが4機(3便)、イプシロンが1機です。当サイトのLL2集計(2026年10月22日取得・弾道飛行を含む国内4射場)では、H3は10回中成功8(2023年3月〜2026年10月)、LL2が「H-II」として1つにまとめている系列は66回中成功64(1994年2月〜2025年6月)、イプシロンは6回中成功5(2013年9月〜2022年10月)です。LL2上の最終便は 2026-10-19T19:41:03Z で、日本時間に直すと10月20日4時41分03秒になり、JAXAの打上げ結果リリースの時刻と秒まで一致します。
日数の差は「クリティカル」に入れた作業の差で、速さの比較にはならない
6機の終了リリースが「確認した」と書いている項目は、機体ごとに違います。原文の項目名を並べます。
| 機体 | 終了リリースが確認したと書いている項目(原文の語) | 経過 |
|---|---|---|
| MMX | 太陽電池パドル展開、三軸姿勢確立、ミドルゲインアンテナ(MGA)保持解放など(注釈※1の定義) | 1日9時間19分 |
| はやぶさ2 | サンプリング装置ホーン部の伸展、イオンエンジンの方向を制御するジンバルの打上時保持機構(ロンチロック)解除、探査機の3軸姿勢制御機能、地上の精密軌道決定システムの機能確認 | 1日22時間08分 |
| XRISM | 太陽電池パドルの電力発生、地上との通信、これらの維持に必要な姿勢制御、軟X線分光装置(Resolve)の冷却システムの安定動作 | 4日1時間48分 |
| SLIM | 太陽電池パネルの電力発生、地上との通信、姿勢制御、軌道制御に必要な推進系(注釈※1の定義。本文は「探査機を維持するために必要となる機能が正常であることを確認しました」) | 7日6時間18分 |
| ひとみ | 冷却システムの立上げ、軟X線分光検出器(SXS)の試験動作、伸展式光学ベンチ(EOB)の伸展など | 11日19時間15分 |
| あらせ | 軌道変更運用(近地点高度上昇)、ワイヤーアンテナの伸展、伸展マストの伸展 | 33日22時間00分 |
MMXの3項目は、太陽電池パドルを開く、姿勢を3軸で安定させる、アンテナの固定を外す、という打ち上げ直後に済ませる作業です。これに対してあらせは、近地点高度を上げる軌道変更運用と、長いワイヤーアンテナとマストの伸展を終えてから「クリティカル運用期間の終了」としています。ひとみは冷却システムの立ち上げと観測装置の試験動作まで含めています。終わらせる作業の中身が違うので、日数の長短を「運用が速い・遅い」と読むことはできません。本稿は「発表までの経過時間が最も短い」とだけ書き、速さの評価は付けません。
同じH-IIA 47号機で同時に上がったXRISMとSLIMの差が、このことの実例になります。打ち上げ時刻は同じ2023年9月7日8時42分11秒で、XRISMは4日1時間48分後、SLIMは7日6時間18分後に終了リリースが出ました。XRISMは冷却システムの安定動作まで、SLIMは(注釈の定義で)推進系の確認までを「クリティカル」に入れており、差の3日4時間30分はその中身の差です。
MMXだけ表題が「初期クリティカル運用フェーズ」で、次の期間の長さが書かれていない
表題を比べると、はやぶさ2・XRISM・SLIM・ひとみ・あらせの5機は「クリティカル運用期間の終了について」で揃っています。MMXだけが「初期クリティカル運用フェーズ終了」で、「初期」が付き、「期間」が「フェーズ」になっています。
次に続く期間の書き方も違います。6機のうち5機のリリースには、次の期間の名前と長さが書かれています。
| 機体 | 終了リリースに書かれた次の期間 | 長さ |
|---|---|---|
| はやぶさ2 | 搭載機器の初期機能確認 | 約3ヶ月間 |
| XRISM | 初期機能確認運用期間 | 約3ヶ月間 |
| SLIM | 地球周回運用期間 | 約20日程度 |
| ひとみ | 初期機能確認、較正観測 | 約1ヶ月半、約1ヶ月半 |
| あらせ | 初期運用 | 約2ヶ月間 |
| MMX | 搭載機器の初期機能確認、往路巡行運用フェーズに向けた準備 | 記載なし |
MMXのリリース本文は「探査機搭載機器の初期機能確認を実施しつつ、火星圏への往路巡行運用フェーズに向けた準備を行う予定です」で、期間や日数の記述はありません。はやぶさ2の終了リリースは「今後、探査機搭載機器の初期機能確認を約3ヶ月間かけて実施する予定です。」と長さを書いており、同じ「初期機能確認」という語を使いながら、MMXのリリースには期間が無い、という違いになります。
「初期」が付く理由はリリースに書かれていません。表題に「初期」が付き、本文が「往路巡行運用フェーズに向けた準備」と続くことから、往路巡行中や火星圏到着時に別のクリティカルな運用が控えているための区別だと推定しますが、MMXプロジェクトサイトと10月20日の打上げ経過記者会見の説明は当サイトが確認できていないので、断定しません。
言えないこと・次に見るもの
書けないことを並べます。
- MMXの運用が速かったかどうか。 6機の「クリティカル」の中身が違うため、経過時間の長短から運用の評価はできません。言えるのは、6機の中で発表までの経過時間が最も短かった、という事実だけです
- 6機が宇宙研の探査機・衛星のすべてかどうか。 あかつき(2010年)は「クリティカルフェーズ終了について」のリリースがPDFだけで、本文を読めなかったので外しました。かぐや・初代はやぶさ・IKAROS・みお は個別のプレスリリース一覧を見ておらず、同種のリリースの有無を確認していません。6機は「当サイトが見つけられた範囲」です
- 「初期」が付く理由。 上に書いたとおり推定にとどめます
- MMXをどの管制室・地上局で運用したか。 リリースに記載が無く、9月25日の記事と同じく本稿も触れません
- 発表時刻と作業が終わった時刻の関係。 経過時間は「発表までの時間」で、JAXAがクリティカル運用の終了時刻を書いているわけではありません
JAXAの2026年プレスリリース一覧は、2026年10月25日に見た時点で10月の掲載が6件(10月1日・6日・14日・18日・20日・21日)で、うちMMXとH3に関するものは18日の打上げ時刻、20日の打上げ結果、21日のクリティカル運用終了の3件でした。10月21日より新しい掲載はありません。次に見るものは、JAXAと宇宙研の発表に搭載機器の初期機能確認の結果と往路巡行運用フェーズへの移行が出るかどうか、そして出たときに、その発表が打ち上げから何日後になるかです。