くわしく 解説 H3 種子島 JAXA 原因究明 MMX

H3 8号機の失敗原因は接着の剥離、9号機からファスナ結合に戻した

・打ち上げ日和 編集部 ・約12分で読めます

JAXAが7月23日に文科省へ出した原因究明報告書を読む。衛星搭載アダプタの接着剥離がフェアリング分離の衝撃で進展したと特定し、対策はH-IIAで実績のあるファスナ結合へ。失敗から次の便まで172日、10号機の方式は資料に明記が無い。

宇宙・ロケット産業を追っている人むけ。数字と一次情報で書いています。

種子島宇宙センターから上昇するH3ロケット。機体の下に白い噴煙の柱が伸びている
種子島宇宙センターから上昇するH3ロケット(2025年2月・みちびき/QZSS-HP)U.S. Air Force photo by Senior Airman Jacob Wood / パブリックドメイン / 出典

2025年12月22日10時51分30秒、H3ロケット8号機は種子島宇宙センターから上がり、みちびき5号機を予定の軌道に届けられませんでした。それから213日たった2026年7月23日、JAXAは原因究明の報告書を文部科学省の宇宙開発利用部会(第107回)に出しています。当サイトで初めて扱う資料です。

報告書が特定した直接原因は、エンジンではなく衛星を載せる構造の一部(衛星搭載アダプタ、PSS)の接着部分が製造工程で剥がれていたことでした。この記事では報告書の本文を引きながら、何が壊れ、何を変え、何がまだ書かれていないかを整理します。10月20日に上がる予定の10号機(MMX)を見る前に、前回の失敗の中身を押さえておくための記事です。

報告書が特定した直接原因は「接着工程の熱でできたPSSの剥離」

PSS(Payload Support Structure、衛星搭載アダプタ)は、第2段機体と衛星分離部(PAF)をつなぐ円錐台形の構造です。報告書の1.4.2節は、このPSSとPAFを合わせて「衛星搭載構造」と呼んでいます。PSSはH3で新規に開発されました。報告書の1.4.3節は、H-IIAとの違いをこう書いています。

PSS パネルのスプライス(結合)の方式は、H-IIA ロケットではファスナ結合であったが、H3 ロケットで接着結合へ変更した

スプライスはパネルどうしをつなぐ継ぎ目です。その継ぎ目を、ボルトなどで留めるファスナ結合から接着に変えた。ここが今回の失敗の入口でした。5.4節の結論を逐語で引きます。

PSS のスプライス間に製造工程で生じた剥離がフェアリング分離時の衝撃で進展し、PSS の全体破壊に至ったことが 8 号機失敗の直接原因であると特定した

剥離ができた主な要因は、報告書によると「開発時に確立したスプライス接着工程において、一部の温度が想定より高くなっていたために、その部位の接着強度が低下したこと」です。つまり、飛行中に何かが起きたのではなく、工場で作った時点で継ぎ目の一部が弱く、それがフェアリングを切り離す瞬間の衝撃で一気に広がった、という筋です。

飛行データはこう読めた。推力が20〜35%低くても軌道に届いた理由

異常の起点を、報告書の4.2節は「衛星フェアリング分離開始直後の異常な加速度発生時に、衛星搭載構造に損傷が発生したこと」としています。機体に付いたカメラの画像では、「衛星フェアリング開頭から 0.45sec 以降に、衛星がカメラに近づく方向(下に落ち込むとともに傾く)に移動」していました(表4.2-1)。そして「第 1 段・第 2 段分離時点において、衛星は第 2 段機体から離脱していた」。3.1節は、みちびき5号機について「第 1 段・第 2 段分離時点で、衛星搭載構造の一部が衛星側に付いたままの状態でロケットから離脱していたと評価」しています。

ここで、第2段エンジンの挙動が説明できるようになります。

項目報告書の記述節
第2段エンジン第1回燃焼の推力20〜35%低かった4.1
同じ燃焼の燃焼時間5%程度長いだけ4.1
到達した軌道所定のパーキング軌道に到達4.1
報告書の解釈燃焼開始時には衛星がなく軽い状態であったと仮定すると説明できる4.2

推力が2〜3割低いのに、燃焼時間はほとんど延びずに予定の軌道に届いた。積み荷がすでに無く、機体が軽かったからだ、というのが報告書の読み方です。当サイトが集計に使っている The Space Devs Launch Library 2 の記録(英語)は、この便を「フェアリング分離後に第2段の液体水素タンクの圧力が異常に下がり始め、第1回燃焼が計画より27秒長くなり、第2回燃焼に入って1秒でエンジンが停止した」と要約しています(当サイト訳)。外から見えていた「第2段の異常」は、報告書では衛星が失われたあとの結果として位置づけられています。

対策は「H-IIAで実績のあるファスナ結合」に戻す、HTV-Xは対策不要

6.1.1節は是正対策として2つの案を並べています。製造済みのPSSの剥離箇所と接着強度が下がった範囲を補修する「補修方式」と、パネルの結合を接着から「H-IIA ロケットにおいて実績のあるファスナ結合に変更」する「ファスナ結合方式」です。どの便にどちらを使うかは、表6.1.1-1で決められています。

対象対策
6号機(30形態試験機)補修方式
標準ミッションファスナ結合方式
HTV-Xミッション対策不要

HTV-Xが対策不要なのは、HTV-X用のPSSとフェアリングが「標準のものとは設計・製造プロセスが異なり、同様の不具合のリスクを有していないことが確認できている」ためです。

フェアリング側にも展開があります。6.2.2節によると、PSSで大きな剥離が生じていたスプライス間に相当する箇所では「剥離は検出されなかった」一方、工程を再現した試験でスプライスの下に小規模な剥離が見つかりました。そこで「製造済みのフライト用のフェアリングについても」「スプライス部全体を追加点検し、剥離が生じている場所は補修を行うこととした(当面全数点検)」。6号機用のフェアリングは、点検の結果「剥離は生じておらず補修は不要」でした。

文部科学省側の調査・安全小委員会の報告書(案)は、JAXAの説明を「合理的な説明がなされており妥当と判断する」とし、「ファスナ結合方式を採用することは、妥当な判断と考える」と書いています。ただし接着をやめると決めたわけではなく、「当面はファスナ結合方式を基本とし、将来的にはスプライス接着方式を適用する可能性も視野に入れた」という留保つきです。

6号機と9号機で何が確かめられたか、荷重は標準の3分の1という但し書きつき

失敗後、最初に飛んだH3は2026年6月12日9時53分59秒の6号機(30形態試験機)でした。補修方式のPSSを載せ、追加した歪センサの計測で「飛行中に発生した歪に異常な挙動はみられず、許容値内に十分収まっていることを確認」しています(5.5節)。

ただし、この便がPSSにかけた荷重は標準より軽い。報告書は注記で数字を出しています。

条件質量重心高さ出典
6号機(VEP-5と小型衛星)約2t0.9m報告書 6.1.1 ※2
標準の設計条件約8t2.5m報告書 6.1.1 ※3

報告書自身が、6号機のペイロード荷重は「標準の設計条件の 1/3 程度」と書いています。6号機の搭載はVEP-5と小型副衛星6基(PETREL、STARS-X、BRO-22、VERTECS、HORN-L、HORN-R)で、太陽同期軌道への打ち上げでした。

主衛星を載せてファスナ結合方式を飛ばしたのは、2026年8月11日4時23分31秒の9号機(みちびき7号機)です。8月26日の宇宙開発利用部会(第108回)に出た資料108-4は、9号機について「失敗の原因究明を踏まえ、高温による内部の剥離リスクを排除したファスナ結合方式PSSを適用(H3ロケットでは初適用)」「令和7年12月の打上げ失敗以降初となる主衛星を搭載した打上げ」と書いています。みちびき7号機は「2027年3月頃にサービス提供開始予定」です。

一方で、JAXAが8月11日に出した9号機の打上げ結果のプレスリリースは「打上げから約29分4秒後に『みちびき7号機』を正常に分離し、所定の軌道に投入」とあるだけで、PSSやファスナ結合には触れていません。ファスナ結合方式が飛んだ根拠は、部会資料の記述です。9号機が原因究明のために日程をどれだけ動かしたかは、みちびき7号機は191日おくれて上がったで追っています。

開発プロセスの反省。試作試験なし、認定試験後の非破壊検査なし

報告書は、直接原因の背後にある開発プロセスの問題を7.1.2節で挙げています。要点は3つです。

  1. 「競争力確保のために新たに OoA スプライス接着を採用」したが、「内部剥離する具体的な不具合モードは識別できていなかった」
  2. 「PSS としての試作試験を実施しなかった」
  3. 「認定試験にて計画通りの挙動を示したことから試験後の非破壊検査は実施せず」、「破壊試験を実施しない計画」だった

つまり、新しい接着方式を採用したのに、剥離という壊れ方を洗い出す試作も、認定試験のあとに中を確かめる検査も無かった。再発防止策(7.1.3節・7.2.2節)はこれに対応しています。リスクを抽出するきっかけになる「チェックリストの整備」、審査会への「実際の開発経験を有する専門家の参画を拡充」、「認定試験後の検査等(破壊試験による余裕の確認、非破壊検査や切断検査…)を確実に実施」、信頼性技術情報「CRA-26001」を関係各社へ展開、教訓4項目をJAXA内の知識共有システム(LINKS)へ追加することの検討、です。

調査の経過も記しておきます。文部科学省の調査・安全小委員会は、失敗翌日の2025年12月23日(第57回)から2026年7月22日(第65回・書面)まで9回開かれました。中間報告書は2026年4月22日の宇宙開発利用部会(第105回)で決定されています。7月23日の第107回は「13時30分~15時30分」、議題1が「『H3ロケット8号機打上げ失敗の原因究明に係る調査・安全小委員会 報告書(案)』について」でした。JAXAのプレス一覧にも同日12時と13時30分の2件として載っています。

失敗から次の便まで172日、1号機のときは347日。そして10号機のPSSは資料に書いていない

ここからは当サイトの手計算です。失敗した便から、次のH3が上がるまでの日数を並べます。

区間日数備考
8号機失敗(2025-12-22)→ 中間報告書決定(2026-04-22)121日第105回 宇宙開発利用部会
8号機失敗 → 原因究明報告書(2026-07-23)213日第107回 宇宙開発利用部会
8号機失敗 → 次のH3(6号機・2026-06-12)172日補修方式PSS・荷重は標準の約1/3
8号機失敗 → 主衛星を載せた次の便(9号機・2026-08-11)232日ファスナ結合方式PSS
8号機失敗 → 10号機 MMX(2026-10-20・予定)302日予定どおり上がった場合
試験機1号機失敗(2023-03-07)→ 試験機2号機(2024-02-17)347日比較用。2号機の日付はJAXA打上げ実績ページ

前回の失敗(試験機1号機)では次の便まで347日かかりました。今回は172日で、前回より175日短い。ただし、その172日で飛んだ6号機の荷重は標準の3分の1程度であり、主衛星を載せた便として最初に飛んだのは232日後の9号機です。

H3の失敗2回はどちらも「第2段が本来の燃焼をできなかった」便ですが、原因は別です。The Space Devs Launch Library 2 の記録を訳すと、1号機は「機体制御装置とエンジン点火器のあいだの電気回路の不具合で第2段エンジンが着火しなかった」もの。8号機は上で見たとおりPSSの全体破壊です。同じ症状に見えて、壊れた場所は違います。

形態別に見ると、こうなります。

形態回数成功失敗期間(日本時間)
H3-227回522023-03-07〜2026-08-11
H3-241回102025-10-26
H3-301回102026-06-12
H3 全体9回722023-03-07〜2026-08-11

失敗2回はどちらもH3-22形態で、MMXが乗る24形態はまだ1回しか飛んでいません。1回の実績から形態の性質は言えません。国内全体では152回中22回が失敗、軌道投入をめざした便に限ると145回中18回が失敗です(1966年9月26日〜2026年8月11日、日本時間)。

MMXが10月20日に上がれば、H3は試験機1号機から1,323日で10号機に達します。当サイトの集計で、形態ごとの名前で10回以上飛んだ国内の機体はH-IIA 202(35回)だけです。ロケットの名前で束ねると、H-IIAが4形態(202・2022・2024・204)の合算で50回。H3は3形態の合算で9回なので、10号機が上がれば、名前で束ねて10回に達する2つ目の機体になります。なお集計上の「H-II」ファミリー66回はH-II 7回・H-IIA 50回・H-IIB 9回の合算、「Mu」30回は6形態の合算で、どちらも単一の名前ではありません。

書けないことをもう2つ。文部科学省側の報告書は表題が「(案)」のままで、第107回の議事録は2026年9月23日時点で掲載されていません。この記事では「提出された」「議題1に上がった」までにとどめ、部会で決定されたとは書いていません。また、10号機の打上げ計画書は機体形態を「H3-24L」(LE-9エンジン2基、固体ロケットブースタSRB-3が4本、ロングフェアリング)としていますが、ロングフェアリングが10号機で初めてかどうかは一次資料で確認できていないので書きません。

MMXは打上げ質量4,480kg(うち化学推進薬3,030kg)で、8号機のみちびき5号機と同じく、フェアリング分離のあとに衛星がPSSの上に載ったまま第2段の燃焼を迎えます。10号機のフェアリング分離は、報告書が8号機の異常の起点とした瞬間にあたります。そこを過ぎて第2段の第1回燃焼が計画どおりの推力で進むかどうかが、8号機の対策を実機で確かめる最初の場面になります。