くわしく 解説 H3 H3-10号機 MMX 種子島 機体把持装置 移動発射台 SRB-3 打ち上げ実績

H3-24は風で揺れやすく把持装置で抱える、ブースタ4本の国内実績は16回中16成功

(2026年10月23日(金) 更新) ・打ち上げ日和 編集部 ・約12分で読めます

JAXAのプレスキットはH3-24形態を「比較的弱い風でも共振しやすい」とし、第1段を抱える把持装置を7号機から運用。10月20日の10号機は手順上4回目で、大型ブースタ4本の形態は当サイト集計で16回中16成功。

宇宙・ロケット産業を追っている人むけ。数字と一次情報で書いています。

種子島の海岸ごしに見える射点。中央にH-IIBロケット8号機が立ち、左に2本の避雷塔が並ぶ
打ち上げ前、射点に立つH-IIBロケット8号機(2019年9月10日・種子島宇宙センター竹崎射場から撮影)。大型ブースタ4本の形態だが機体はH3ではなく、H3用の移動発射台ML5も機体把持装置も写っていない(装置の運用開始は2025年10月)Shinntarou / CC BY-SA 4.0 / 出典

2026年10月20日4時41分03秒に種子島宇宙センターから上がったH3ロケット10号機(火星衛星探査機MMX)は、固体ロケットブースタSRB-3を4本付けた「H3-24L」形態でした。この記事は、打ち上げの瞬間ではなく、その前の「射点に立っているあいだ」の話をします。JAXAのプレスキットは、H3の22形態と24形態が組立棟から射点へ移動するとき、第1段を抱えて風の揺れを抑える「機体把持装置」を使うと書いています。装置の運用開始は2025年10月の7号機で、プレスキットの手順どおりなら10号機はこの装置を使う4回目の便です。

後半では、当サイトの集計から「大型ブースタ4本の形態は国内で何回飛び、何回成功したか」と、「離昇時の推力のうちSRB-3がどれだけを占めるか」を出します。前者は10号機を加えて16回中16成功、後者は資料の値どうしの計算で約76%です。

ヒーロー写真は2019年9月、射点に立つH-IIBロケット8号機です。大型ブースタ4本の形態ではありますが、機体はH3ではなく、H3用の移動発射台ML5も機体把持装置も写っていません。

10号機は把持装置を使う4回目の便(手順上)、24形態では2回目

プレスキット11.2.4は、機体把持装置をこう定義しています。

機体把持装置は、H3 ロケットが地上にある間、風によって機体が大きく揺れることを防ぐための地上設備である

運用の実績も同じ節にあります。

2025 年 7 月に実施した H3 ロケット 6 号機の 1 段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)で、昇降を 3 回実施し、把持、解除、退避という一連の動作が正常に行えることを確認したうえで、同年10月の H3 ロケット 7 号機の打ち上げで運用を開始した

6号機のCFTの1回目について、18.4.4は「2025 年 7 月 24 日に実施し、第 1 段エンジン 3 基を計画通り 25 秒間燃焼」と記しています(2回目は2026年3月15日・50秒間)。6号機は燃焼試験に使われたあと、30形態の試験機として2026年6月12日に飛びました。

どの形態で使うのかは、11.2.4の末尾近くにあります。

SRB-3 を装着しない H3-30 形態では、機体が比較的揺れにくい。加えて、発射台のホールドダウンシステムで固定していることから、機体把持装置は基本的には使用しない

この2つの記述と各号機の形態を当サイトが並べると、把持装置を使う便は次のとおりです。

号機打ち上げ日(日本時間)形態把持装置結果
6号機2026-06-12H3-30不使用(30形態)成功
7号機2025-10-26H3-24運用開始成功
8号機2025-12-22H3-222回目失敗
9号機2026-08-11H3-223回目成功
10号機2026-10-20H3-24L4回目(手順上)成功

7号機より前の便(試験機1号機から5号機まで)は、運用開始前なので使っていません。10号機のプレスキット25.1・25.2は「機体形態は初の「H3-24L」」「24 形態としては 7 号機に続く 2 度目の打ち上げ」としています。本稿で新しいのは「把持装置を使う4回目」の数え方です。

第1段の中央を半円で抱える、ML5の2本のマストの間の装置

装置の構造は11.2.4に次のように書かれています。H3用の移動発射台「ML5」に設けた「2 本のマストの間に配置」され、「円筒形のロケットを半円状の部品で抱えるように支え、その部品を腕状の機構で昇降させる」。抱える位置は「第 1 段中央部」で、「駆動には地上設備から供給される油圧」を使い、「制御系統には二重故障許容の設計」を採っています。

運用の流れは、同じ節が1段落で書いています。

機体把持装置でロケットを支えた状態で、大型ロケット組立棟から射点へ移動する。その後、配管接続などを行い、ロケットに推進薬を充填する。推進薬が満たされると機体は重くなり、風の影響を受けにくくなるため、把持を解除して装置を退避させる

つまり装置が働くのは、組立棟を出てから推進薬が入るまでの区間です。打ち上げの瞬間には退避しています。

なぜ24形態でとくに要るのか、全備575tと「比較的弱い風でも共振」

導入の理由は11.2.4の冒頭にまとまっています。

H3 は H-IIA よりも機体が大型化しており、とくに推進薬が入っていない状態では風の影響を受けやすい。具体的には、地上風によって機体に非線形の共振現象が起き、一定の風速を超えると、機体の揺れが急に大きくなり、最悪の場合、転倒するおそれもあった。とくに SRB-3 を 4 本装着する H3-24 形態では、機体が重くなって固有振動数が低くなり、比較的弱い風でも共振しやすくなるため、機体把持装置の導入が重要であった

「一定の風速」がいくつなのかは、資料に書かれていません。プレスキットを「風速」「m/s」で探しても、打ち上げ可否の気象条件の数値は見つかりませんでした。

「機体が重くなって」の中身は、主要諸元の表で見えます。22形態と24形態を、プレスキット21.3(試験機2号機)と25.3(10号機)から並べます。

項目試験機2号機(H3-22)10号機(H3-24L)差
全備質量(人工衛星含まず)約422t約575t153t
SRB-3 質量約152.4t(2本分)約304.8t(4本分)152.4t
SRB-3 本数2本4本2本

差の列は当サイトの引き算です。全備質量の差153tのうち152.4tがSRB-3の2本分です。プレスキットは「重くなると固有振動数が低くなる」とだけ書き、固有振動数の値は示していません。

地上風への対策は、把持装置だけではありません。11.2.1は移動発射台そのものの変更として、「マストの上部の断面形状を変更するとともに、左右に立つ 2 つのマストと連結するオーバーブリッジを削除した」と書いています。把持装置は、この発射台の改修に加えて導入された装置です。

ホールドダウンとの関係、資料の2つの記述を並べる

射点にはもう1つ、機体を固定する仕組みがあります。11.2.3のホールドダウンシステムで、「発射台上の……4 か所設けられた、大きな爪のような機構」であり、「30 形態試験機である 6 号機で初めて打ち上げに供された」ものです。

把持装置とホールドダウンの関係について、プレスキットには2か所の記述があり、文言が少し違います。まず11.2.3です。

H3 の 22 形態や 24 形態でも、LE-9 エンジンの始動後も、2 基の LE-9 エンジンだけでは推力が機体の自重を上回らず、SRB-3 が機体の重りとして働くため SRB-3 の点火前に機体が浮き上がることはない。このため、リフトオフ直前まで機体を発射台に拘束する仕組みを必要としない

次に11.2.4の末尾です。

22 形態と 24 形態では、従来の打ち上げ時にはホールドダウンシステムを使って機体を固定していたが、機体把持装置の適用により、その必要がなくなった

当サイトの読みでは、前者は「浮き上がりを防ぐための拘束」が22・24形態には要らないという話で、後者は「風対策としての固定」が把持装置に置き換わったという話です。この分け方で読めば2つは矛盾しません。ただし、資料は両者の関係を説明しておらず、この整理はJAXAの説明ではなく当サイトの解釈です。

ブースタ4本の形態は国内16回中16成功(当サイト集計に10号機を加算)

ここからは当サイトの集計です。大型の固体ブースタを4本付けた形態は、国内では3つあります。LL2のスナップショット(2026年9月5日1時52分 日本時間時点)の形態別集計から取り出し、10月20日の10号機を足すと、こうなります。

形態ブースタ回数成功失敗期間(日本時間)
H-IIA 204SRB-A 4本5回502006-12-18〜2021-12-23
H-IIB 304SRB-A 4本9回902009-09-11〜2020-05-21
H3-24SRB-3 4本2回202025-10-26〜2026-10-20
合計—16回1602006-12-18〜2026-10-20

16回中16成功で、失敗はありません(H3-24の2回目=10号機は当サイトの加算)。ただし境界を2つ書いておきます。H-IIA 2024形態(7回・失敗1)は、SRB-A 2本に小型のSSB 4本を加えた形態で、「大型ブースタ4本」には入れていません。この形態の1回の失敗(2003年11月29日・6号機)はLL2の記録で "One of the SRBs failed to separate from the 1st stage." です。もう1つ、H-IIA・H-IIBのSRB-AとH3のSRB-3は別の部品です。プレスキット8.1は、SRB-3について「SRB-A では可動式だったノズルを固定式にしている」と書き、姿勢制御は「第 1 段に 2 基ないしは 3 基装着する LE-9 によって行う」としています。

把持装置を使った便に絞ると、7号機(成功)・8号機(失敗)・9号機(成功)・10号機(成功)の4回中成功3です(10号機は手順上の数え方)。8号機の失敗は衛星搭載アダプタの接着剥離が原因で、くわしくは9月23日の記事に書きました。JAXAの資料に、この失敗と把持装置との関連を述べた記述はありません。

ここで強調しておきたいのは、地上で風に揺れるリスクと、飛行の成否は別の事柄だということです。4本ブースタの16回の成功は「飛んだあと」の記録で、把持装置が防ごうとしているのは「飛ぶ前」の転倒です。16回中16だから24形態の打ち上げが安心だ、という文には当サイトはしません。

離昇推力の約76%はSRB-3、LE-9 2基だけでは自重の半分

11.2.3の「2 基の LE-9 エンジンだけでは推力が機体の自重を上回らず」を、主要諸元の数字で確かめます。プレスキット25.3と21.3の推力は「真空中」で、固体モータは「最大推力で規定」された値です。以下は当サイトがその値どうしを割り算したもので、地上での実際の離昇時の推力はこれより小さくなります。

項目試験機2号機(H3-22)10号機(H3-24L)
第1段 推力(LE-9 2基分)約2,942kN約2,942kN
SRB-3 推力約4,600kN(2本分)約9,200kN(4本分)
合計7,542kN12,142kN
合計に占めるSRB-3の割合61.0%75.8%

10号機では、離昇時の推力の約76%をSRB-3が出す計算です。22形態では約61%で、4本にすることで固体ブースタの比重が15ポイント近く上がります。

推力重量比も、10号機だけ出します。全備質量約575tにMMXの打上げ質量4,480kgを足した579.48tを重量に直すと約5,683kN(重力加速度9.80665m/s²)。合計推力12,142kNをこれで割ると約2.1です。LE-9 2基分の2,942kNだけなら0.52で、自重の半分ほどにしかなりません。11.2.3の「推力が機体の自重を上回らず」は、資料の値の上でも成り立っています。

10号機は予定どおり10月20日(火)4時41分03秒に上がり、JAXAは約1時間11分13秒後にMMXを正常に分離したと発表しました。10号機が「把持装置を使う4回目の便」であることは、今のところプレスキットの手順から当サイトが数えたもので、JAXAの文書で10号機個別に確かめられたものではありません(2026年10月23日更新)。