欧州宇宙機関(ESA)は2026年9月23日、JAXAと共同で進める小惑星アポフィスの探査機「RAMSES(ラムセス)」の機体に初めて電源を入れたと発表しました。RAMSESは、JAXAの探査機DESTINY+(デスティニー・プラス)と一緒に、H3ロケットの「24S」形態に相乗りして2028年度に種子島から上がる計画です。10月20日にMMXを載せて上がったH3ロケット10号機の次に、H3で惑星間へ出る便の1つがこれです。
この記事は、ESAの発表をきっかけに、内閣府の小委員会に2026年4月に出たJAXA資料から相乗りの中身(形態・積み方・分離の順)を読み、当サイトの集計でH3-24形態がこれまで何回飛んだのかに接続します。結論を先に書くと、H3-24形態の実績は10月20日の10号機を加えて2回(7号機・2025年10月26日、10号機・2026年10月20日)で、DESTINY+とRAMSESが乗る「24S」はブースタ4本にショート型フェアリングという、当サイトの表の上ではまだ飛んでいない組み合わせです。
ヒーロー写真は2005年に撮られた種子島宇宙センター吉信第2射点(LP-2)で、H3はここから上がります。写っているのは射点で、RAMSESやDESTINY+の機体ではありません。後述する「射場設備改修」は2026年4月時点の計画で、この写真には反映されていません。
ESAが9月23日に「初めて電源を入れた」と発表、機体はミラノで組立中
ESAの9月23日の記事は、通電の内容をこう書いています。
For the first time we were able to apply power to Ramses's On-Board Computer together with its integrated subsystems inside the spacecraft body.
当サイトの訳では「初めて、機体の内部に組み込んだサブシステムと一緒に、RAMSESの搭載計算機に電源を入れることができた」です。機体の中核部分(コアモジュール)は、主契約者であるOHB Italiaのミラノのクリーンルームで組み立てが進んでいます。同じ記事は打ち上げについて「must be ready to be launched on a Japanese H-3 rocket in spring 2028」、つまり2028年春に日本のH3で上がれる状態になっていなければならない、と書いています。
ESAが今の日程に至るまでの区切りを、ESAとJAXAの発表から並べます。
| 日付 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2025年1月 | システムPDR(基本設計審査会)終了 | 文科省資料98-1 p.8 |
| 2026年2月10日 | ESAとOHB Italiaが製造・組立・試験フェーズの契約(€81.2 million)を締結。2024年10月の準備契約と合わせ約€150 million | ESA Multimedia |
| 2026年5月7日 | JAXAとESAが地球防衛の協力覚書とRAMSESの協力協定に署名(ベルリンのイタリア大使館、山川宏理事長とJosef Aschbacher長官) | JAXA 5月8日プレスリリース、ESA 5月7日記事 |
| 2026年7月2日 | 同乗するCubeSat 2機のうち、表面着陸機「Don Quijote」(スペインのEMXYS)の契約を発表。もう1機は「Farinella」(イタリアのTyvak International) | ESA 7月2日記事 |
| 2026年9月23日 | 機体に初通電 | ESA 9月23日記事 |
JAXAが提供するのは3点で、JAXAの5月8日プレスリリースは「薄膜軽量太陽電池パドル(Solar Array Wing:SAWs)および熱赤外センサ(Thermal Infrared Imager:TIRI)」と「H3ロケットによる打上げ」を挙げています。ISASのRAMSESページも同じ3点です。JAXA側の負担金額やDESTINY+の総事業費は、今回開いた資料98-1と資料4のどちらにも記載がありません。
文科省資料98-1(2025年8月)の表にある探査機の計画値は、質量「約1.3t」、寸法「約1.9m×約1.8m×約2.1m(探査機構体部)」です。同じ資料は「二重小惑星探査計画Heraの設計を積極的に活用し、基本設計審査から打ち上げまで3年半という超短期開発」と書いています。ESAの9月23日の記事にも「less than three and a half years from contract signing to lift-off」とあり、こちらは契約から打ち上げまでの表現で起点が違います。ESAの記事は起点となる契約がどれかを明記していないので、当サイトはどの日付からの3年半かを特定しません。
発表から10月16日までは23日、JAXA-ESAの署名からは162日です。
相乗りの中身。H3-24S形態・Side-by-Side・DESTINY+を先に分離(内閣府資料4)
DESTINY+との相乗りを一次資料で明記しているのは、内閣府の宇宙科学・探査小委員会に2026年4月23日に出た資料4です。2ページにこうあります。
ESA-JAXAジョイントミッションであるRAMSES(ラムセス)とDESITNY+はH3ロケットにて相乗りにより2028年度打上げを計画している。(第98回宇宙開発利用部会、第68回宇宙・探査小委員会にて報告済み)
「DESITNY+」は資料の表記のままです。構成の詳細は6ページにまとまっています。
RAMSESとDESTINY+はH3-24S形態に相乗りにより2028年度打上げ予定。
同じページに「相乗りコンフィグレーションはSide-by-Side構造」「相乗対応ディスペンサ・射場設備改修はJAXA開発。」「打上げシーケンス上、DESTINY+を先に分離。」とあります。Side-by-Sideは、2機を上下に積むのではなく横に並べて載せる構造です。分離の順はDESTINY+が先で、時刻や高度などシーケンスの数字は資料4にありません。当サイトも書きません。
ISASのDESTINY+ページも打ち上げロケットを「H3 ロケット 24S形態」とし、「ESAの探査機RAMSESとの相乗り形態でH3ロケットによって、惑星間軌道に打ち上げられます」と書いています。ただしDESTINY+ページには打ち上げ年の記載がなく、年度はRAMSESページ(「2028年度」)と資料4によります。ESAの3記事とJAXAの5月8日プレスリリースの範囲では相乗りの記載を確認できなかったので、相乗りの帰属は資料4とISASの各ページに限ります。
資料4の10ページには、DESTINY+の側から見た相乗りの意味が1行あります。
H3ロケットへの変更により、DESTINY+ではApophisとPhaethonのマルチフライバイ観測が可能となった
DESTINY+の本来の目標天体は小惑星(3200) Phaethon(フェートン)で、資料98-1(3ページ)は「打上げ時期延期に伴う付加価値整理の一環として、Phaethonフライバイリハーサルも兼ね」てアポフィスをはじめ複数天体へのフライバイを計画する、としています。
H3-24形態はこれまで2回、W型とL型。24Sはまだ飛んでいない組み合わせ
ここから当サイトの集計です。LL2の2026年9月5日時点のスナップショットに10月20日の10号機を足すと、H3の形態別の実績は次のとおりです。
| 形態 | 回数 | 成功 | 失敗 | 期間(日本時間) |
|---|---|---|---|---|
| H3-22 | 7回 | 5 | 2 | 2023-03-07〜2026-08-11 |
| H3-24 | 2回 | 2 | 0 | 2025-10-26(7号機・HTV-X1)〜2026-10-20(10号機・MMX) |
| H3-30 | 1回 | 1 | 0 | 2026-06-12(6号機) |
| 合計(H3ファミリー) | 10回 | 8 | 2 | 2023-03-07〜2026-10-20 |
形態別の回数7+2+1=10は、H3ファミリーの10回と一致します。2件の失敗はどちらも22形態で、試験機1号機(2023年3月7日・ALOS-3)と8号機(2025年12月22日・みちびき5号機)です。24形態は2回、30形態は1回と母数が小さいので、率にはしません。
この表はLL2の名前による区分で、フェアリングの文字を含みません。9月28日の記事でJAXAの各号機ミッション概要ページから付けたフェアリングの種別を重ねると、9月28日の時点で飛んでいた9機はショート型(S)が7機、ワイド型(W)が1機、一次記載なしが1機(6号機)、ロング型(L)は0機でした。24形態の1回目は7号機の「H3-24W」で、HTV-X用のワイド型です。10月20日に上がった10号機は「H3-24L」で、JAXAのミッション概要ページは「ロングフェアリングは初めての適用」、24形態については「新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)を打ち上げたH3ロケット7号機に続く二度目の飛行」としています。
つまり24形態で飛んだフェアリングはWとLで、DESTINY+とRAMSESが乗る「24S」(ブースタ4本+ショート型)は、当サイトの表の上ではまだ飛んでいない組み合わせです。
2029年4月13日に地表32,000kmを通過するアポフィスへ、DESTINY+が2〜3週間先に着く
目的地のアポフィスについて、文科省資料98-1の5ページはこう書いています。
Apophisは2029年4月13日(金)21:46UTCに、地心から0.00025auまで接近(地表から約32,000km)。直径が約340mもの天体が静止軌道よりも近い距離を通過するのは観測史上初
ESAの5月7日の記事も「Apophis will pass just 32 000 km above Earth's surface on Friday 13 April 2029 – one tenth the distance to the Moon and closer than satellites in geosynchronous orbits.」と同じ数字です。10月16日からこの最接近までは910日です。
RAMSESの運用計画は資料98-1の8ページの表にあります(2025年8月時点の計画)。
| 区分 | 時期 | アポフィスとの距離 |
|---|---|---|
| Apophis到着 | 2029年2月 | — |
| 地球最接近前 | 2029年3月1日〜4月11日 | 20〜1 km |
| 最接近中 | 2029年4月12日〜14日 | 5 km |
| 最接近後 | 2029年4月15日〜 | — |
| ミッション終了 | 2029年8月 | — |
ISASのRAMSESページは到着を「2029年2月末」としています。
DESTINY+の側は、資料4の6〜7ページにあります。「DESTINY+はRAMSESより先にApophisを検出・同定し、観測情報をRAMSESへ共有予定」で、図ではフライバイ約10日前に検出(約133万km)、約5日前に同定(約67万km)です。7ページは「DESTINY+ が2-3週間オーダーでRAMSESより先にApophisに到着」とし、DESTINY+の最接近距離は「30-100km(検討中)」、相対速度は「1.5〜2.2 km/s」です。RAMSESがアポフィスに並走して数kmまで寄るのに対し、DESTINY+は秒速1.5〜2.2kmで通り過ぎる計画で、2機の見方が違います。
10月16日の予定表で「日」精度は16件中2件、2028-04-20は一次資料には無い日付
当サイトの予定表(2026年10月16日4時47分取得・16件)で、DESTINY+ & RAMSESは「H3-24」の行に2028年4月20日・精度「日」で載っています。この日付はLL2の登録値です。JAXAの資料4・ISASのページは「2028年度」、ESAは「spring 2028」までしか言っておらず、4月20日という日付は今回開いた一次資料のどれにもありません。LL2がこの日付を何に基づいて登録したかは、LL2の出典欄を開いていないので分かりません。
16件の内訳は次のとおりです。
| 項目 | 件数 | 内訳 |
|---|---|---|
| H3の便 | 13件 | 24形態5(MMX、LUPEX、HTV-X2、HTV-X3、DESTINY+ & RAMSES)、22形態3(ETS-9、SDA衛星、ispace ULTRA)、30形態3(IGS 3件)、形態未指定2(Mid-Inclination Rideshare、MBR Explorer) |
| 日付の精度が「日」以上 | 2件 | MMX(秒・2026年10月20日4時41分03秒)、DESTINY+ & RAMSES(日・2028年4月20日) |
| 精度が「月」以下 | 14件 | 月1(SOLAR-C)、四半期1(MBR Explorer)、半期2、年10 |
10月16日の取得時点では、MMXを除くと、日付の精度が「日」で載っている便はDESTINY+ & RAMSESだけでした(10月23日にLL2を見ると、MBR Explorerが2028年3月3日・精度「日」に変わっています)。ただし上に書いたとおり、その「日」はJAXA・ESAの一次資料に裏付けがなく、当サイトはこの日付を予定として扱いません。10月7日の記事に書いた宇宙研のロードマップでも、DESTINY+は「FY2028」と年度までです。2028年度の始まり(2028年4月1日)までは10月16日から533日、LL2の4月20日までは552日です。
2028年のH3便はほかにMBR ExplorerとispaceのULTRAが予定表にあり、どれが先かを示す公式の順番が無いことは9月30日の記事に書きました。DESTINY+ & RAMSESについては、資料4の「相乗対応ディスペンサ・射場設備改修はJAXA開発」という一文が、JAXA側で機体以外に何を作る必要があるかを示す今のところ唯一の一次記載です。この改修の内容・時期・費用は資料にありません。