くわしく データ ispace ULTRA H3 三菱重工 月探査 種子島 予定表

ispaceの月着陸船ULTRAはH3で、時期は当初の2027年から2028年内へ

・打ち上げ日和 編集部 ・約10分で読めます

ispaceと三菱重工は2026年7月29日、月着陸船ULTRAをH3で打ち上げる契約を結んだ。時期はSBIRで合意した2027年中から2028年内に後ろ倒し。当サイト予定表16件のいちばん遠い1件を読む。

宇宙・ロケット産業を追っている人むけ。数字と一次情報で書いています。

種子島宇宙センター吉信第2射点。射点の構造物と2本の避雷塔が海を背に立っている
種子島宇宙センター 吉信第2射点(LP-2)。H3ロケットはここから上がる(2005年撮影)Naritama (NARITA Masahiro) / CC BY-SA 3.0 / 出典

当サイトの打ち上げ予定表には16件が並んでいて、いちばん遠い日付の1件は「H3-22 | ispace Mission 3 ULTRA」です。これは日本の民間企業 ispace(アイスペース)の月着陸船 ULTRA(ウルトラ) を、H3ロケットで月へ運ぶ便です。ispace と三菱重工は2026年7月29日にこの便の打ち上げ輸送サービス契約を結びました。発表から2か月たっていますが、当サイトはこれまでこの便に触れていません。

この記事は速報ではありません。三菱重工の発表文を逐語で引きながら、ispace 自身が注記に書いた「当初2027年中の打ち上げとして合意していたが、2028年内を見込む」という時期の後ろ倒しを読み、当サイトの予定表と実績データのなかでこの便がどこにいるかを示します。まだ決まっていないこと(機体の形態・2028年の順番・計画変更の認可)は最後にまとめます。

予定表のいちばん遠い1件は、日本の会社の月着陸船

当サイトの予定表で、この便は次のように載っています。

項目予定表の値
名前H3-22 | ispace Mission 3 ULTRA
打ち上げ時刻(NET)2028-12-31 00:00 UTC
精度年
状態未定(To Be Determined)
射点種子島宇宙センター 吉信第2射点(LP-2)
事業者三菱重工業
行き先(LL2の登録値)Lunar Orbit(月周回軌道)/Lunar Exploration

16件のうち日付がいちばん遠いのがこの便です。「2028-12-31」は精度「年」のプレースホルダで、2028年のいつかは決まっていません。

三菱重工の発表によると、ispace は2010年に設立され、日本・ルクセンブルク・アメリカの3拠点で活動し、2026年7月時点で約350名のスタッフが在籍しています。過去の月ミッションについて、発表文は次のように書いています。

ispaceはこれまで、過去二度の月ミッションを通じて月面への軟着陸を目指し、いずれも月周回軌道まで安定的な到達能力を実証してきました。 (三菱重工 プレスリリース 2026年7月29日)

発表文が書いているのは「月周回軌道まで」の到達です。着陸の成否はこの発表文には書かれていないので、当サイトもここから先は書きません。

契約の中身は「2028年」「H3」「輸送サービス」

契約の骨子は、発表文の冒頭にすべて入っています。

株式会社ispace…と三菱重工業株式会社…は、2028年に予定している月面着陸ミッションにおける、新ランダー(月着陸船)「ULTRA(ウルトラ)」の打上げに関して、日本の基幹ロケットであるH3ロケットによる打上げ輸送サービス契約を7月29日(水)に締結しました。 (同上・「…」は当サイトの省略)

署名は ispace 本社での共同記者発表会で行われ、三菱重工からは防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部長の五十嵐巖氏、ispace からは代表取締役CEO & Founder の袴田武史氏が出席しています。ULTRA は「現在は、経済産業省のSBIR補助金を活用し、新たなランダー「ULTRA」の開発を進めております」と書かれているとおり、開発中の新しい着陸船です。両社は輸送サービスにとどまらず、「将来的な月面インフラ構築や関連技術領域における協力関係の強化についても検討」するとしています。

発表文に書かれていないこともあります。ロケットの形態(ブースタの本数やフェアリングの長さを表す 22・24・30 や S・L・W)は、この発表文にはありません。当サイトの予定表にある「H3-22」は LL2 の登録値で、公式の形態はまだ出ていません。

「当初2027年中」が「2028年内」になった経緯を、ispace自身の注記で読む

発表文の会社概要欄に、ispace の今後の計画が3段で書かれています。

ミッション内容時期(発表文の記述)
新ミッション2.5月周回衛星1基を月周回軌道へ投入「最速2027年」
新ミッション3(旧ミッション4)日本拠点が主導で開発する ULTRA による打ち上げ。SBIR補助金を活用「2028年(注1)」
新ミッション4(旧ミッション6)南極近傍への高精度着陸「2029年(注2)」

この「注1」が、この記事でいちばん読んでほしい部分です。全文を引きます。

当該打上げ時期については2026年7月時点の予定であり、今後変更する可能性があります。なお、ispaceが補助対象事業として採択されたSBIR(Small Business Innovation Research)制度の公募テーマ「月面ランダーの開発・運用実証」の事業実施期間が原則として2027年度とされており、SBIR制度に基づく補助金の対象となるミッション3(旧ミッション4)は、当初2027年中の打上げとして経産省およびSBIR事務局と合意しておりましたが、2026年7月時点ではispace社内の開発計画上、2028年内の打上げとなることを見込んでおります。本変更については今後、関係省庁およびSBIR事務局と調整中の段階であり、最終的には経産省により正式に計画変更が認可されることとなります。 (同上・注1)

ここから読み取れることを、時系列で並べます。

段階記述主体
SBIR の事業実施期間原則として2027年度SBIR制度(公募テーマ「月面ランダーの開発・運用実証」)
当初の合意2027年中の打ち上げispace と経産省・SBIR事務局
2026年7月時点の見込み2028年内の打ち上げispace 社内の開発計画
計画変更関係省庁・SBIR事務局と調整中。最終的には経産省が認可経産省

つまり「2028年」は、ispace が自分の開発計画から見込んだ時期で、補助金の枠組み(SBIR の事業実施期間は原則2027年度)とはまだ合っていません。計画変更は2026年7月時点で「調整中」で、経産省の認可が出たかどうかは当サイトが開けた資料では分かりません。

「2027年中」から「2028年内」への変化を「1年遅れ」と書きたくなりますが、当サイトはそう書きません。元の時期も新しい時期も年単位で、2027年12月から2028年1月なら数日、2027年1月から2028年12月なら約2年の幅があります。遅れの日数は計算できないので、「年が1つ後ろへ動いた」までにとどめます。

当サイトの予定表16件の中でどこにいるか

2026年9月29日19時47分(UTC)に取得した予定表16件を、当サイトが手で数えました。

切り口件数内訳
機体H3系 13件・イプシロンS 2件・ZERO 1件H3系の内訳は H3-24 が5件、H3-30 が3件、H3-22 が3件、形態未記載の「H3」が2件
行き先が月(LL2の登録値が Lunar Orbit)2件LUPEX(H3-24・2026年・精度「年」)、ispace ULTRA(H3-22・2028年・精度「年」)
日付が2028年以降4件MBR Explorer(2028年第1四半期)、DESTINY+ & RAMSES(2028-04-20)、SOLAR-C(2028年11月)、ispace ULTRA(2028年)
精度が「年」10件16件中もっとも多い精度。「年の前半」2件、四半期・月・日・秒が各1件

同じ H3-22 で登録されている便は3件で、ETS-9(きく9号・2026年)、JSDF SDA衛星(2027年前半)、ispace ULTRA(2028年)が並びます。3件とも状態は未定です。10月20日に上がる予定の MMX は火星の衛星へ向かう便で、月行きの2件には入れていません。

月行き2件のどちらが先に上がるかは、予定表からは言えません。LUPEX は「2026年」で置かれていますが精度は「年」で、状態は未定です。ULTRA も同じです。したがって「ULTRA が H3 として初めての月行き」とは書けず、「予定表の月行き2件のどちらかが、H3 として初めての月行きになる」までが当サイトの言えることです。

H3の実績9機に、月行きは0

H3 の実績を、当サイトの集計と三菱重工の実績ページで照合しました。

出典機数成功失敗期間(日本時間)
当サイトの集計(LL2・機体ファミリー「H3」)9機722023-03-07〜2026-08-11
三菱重工「H3ロケットの実績」表9機722023-03-07〜2026-08-11

両方とも9機・成功7・失敗2で一致します。三菱重工の表の投入軌道欄を9機ぶん並べると、太陽同期軌道(SSO)が2、静止トランスファ軌道(GTO)が2、国際宇宙ステーション(ISS)が1、準天頂軌道が1、準静止軌道が1、記載が「─」のものが2で、月は0です。

三菱重工の実績ページ全体で、月へ向かったペイロードが載っている便は2件で、どちらも H-IIA です。

号機打ち上げ日時(日本時間)搭載投入軌道欄結果
H-IIA 13号機2007-09-14 10:31:01月周回衛星「かぐや」(SELENE)月遷移軌道成功
H-IIA 47号機2023-09-07 08:42:11XRISM+小型月着陸実証機(SLIM)地球周回軌道成功

SLIM は表の投入軌道欄が「地球周回軌道」なので、「月遷移軌道」に投入された便として表に載っているのは「かぐや」の1件だけです。当サイトはこの表を「三菱重工の便で月へ向かったペイロードは2件」と読みますが、数え方はこの表の欄に従っています。

まだ決まっていないこと

この便について、当サイトが開けた資料で決まっていないこと、書けないことを並べます。

JAXA のプレスリリース一覧を2026年9月30日に見た範囲では、2026年9月の項目は4件(プレスリリース3件と記者説明会1件)で、ispace や ULTRA に関するものはありませんでした。H3 に関わるものは、10月20日に上がる予定の MMX の記者説明会(9月24日)だけです。次にこの便が動くとすれば、経産省側の計画変更の認可、JAXA か三菱重工による形態の発表、LL2 の登録値が「2028年・精度は年」から動くとき、のどれかです。動いたら、この記事に更新日を付けて追記します。