くわしく データ ISAS 宇宙科学・探査ロードマップ イプシロンS SOLAR-C DESTINY+ MMX 内之浦 予定表

宇宙研の新ロードマップ、小型計画はイプシロンSで10年に5回、イプシロンの実績は6回

・打ち上げ日和 編集部 ・約12分で読めます

宇宙研が9月30日付でロードマップをE改訂。MMXはFY2026、SOLAR-CとDESTINY+はFY2028と想定され、予定表と一致。小型計画は「イプシロンSで10年に5回」が前提で、イプシロンの実績は6回、空白は1,456日です。

宇宙・ロケット産業を追っている人むけ。数字と一次情報で書いています。

山あいに広がる内之浦宇宙空間観測所を高台から見下ろした風景
内之浦宇宙空間観測所(2015年・星ヶ丘から撮影)Ippukucho / CC BY 3.0 / 出典

JAXA宇宙科学研究所(ISAS・宇宙研)は、2026年9月30日付で「宇宙科学・探査ロードマップ」を改訂し、10月1日に公開しました。改訂は5回目で、文書の中では「E改訂」と呼ばれています。本編は52ページあり、その27ページに「打上げが想定されているミッション」という年度つきの表が載っています。MMX(火星衛星探査計画)は2026年度、SOLAR-C と DESTINY+ は2028年度、JASMINE は2031年度、LiteBIRD は2036年度です。

この記事は、その表を当サイトの打ち上げ予定表(16件)と突き合わせ、ロードマップが前提にしている「小型計画はイプシロンSで10年間に5回」という打ち上げ頻度を、当サイトが持つイプシロンの実績(6回)と並べるものです。年度の読み方は「想定」であって決定ではありません。最後に「この記事で言えないこと」をまとめます。

宇宙研のロードマップが9月30日付でE改訂、前回から1,148日

本編PDFの冒頭には改訂履歴が並んでいます。B改訂が2021年1月20日、C改訂が2022年4月6日、D改訂が2023年8月9日、そして今回のE改訂が2026年9月30日です。D改訂からE改訂までは 1,148日(約3年2か月)で、B・C・D の間隔(約1年3か月、約1年4か月)より長くあいています。

改訂日付前回からの日数
B改訂2021-01-20—
C改訂2022-04-06441日
D改訂2023-08-09490日
E改訂2026-09-301,148日

ISASのページには藤本正樹所長のメッセージが載っていて、書き出しはこうです。

今回のロードマップ改訂は本気です。昨年4月就任から多くのメンバーと議論した結果を、今年冒頭に「このままではうまくいかない」との文書にしてウェブ掲載しました(そのXポストの閲覧数は30万、テック系ウェブには解説記事も)。そこから更に議論した課題解決方策を、「これから為すべきこと」という形にしたものだからです。 (ISAS「宇宙科学・探査ロードマップが改訂されました」2026年10月1日)

本編14ページは、課題を4つ並べています。

宇宙科学分野を取り巻く課題(①開発費増大、②JAXA内外の人材不足、③打上げ確保の困難さ、④基盤設備の維持・確保の困難さ) (本編PDF 14ページ)

この記事が追うのは、このうち「③打上げ確保の困難さ」です。ロードマップが置いた年度と頻度が、ロケット側の実績とどう向き合っているかを見ます。なお、改訂の公開(9月30日付)から MMX の打ち上げ予定日(10月20日)までは 20日です。

「打上げが想定されているミッション」の表:MMXはFY2026、SOLAR-CとDESTINY+はFY2028、JASMINEはFY2031、LiteBIRDはFY2036

本編27ページの表は「2.宇宙科学・探査の中期計画(2026-2036年)」の中にあります。列は「計画(年度:FY)」と FY2026 から FY2032 までの各年度、そして「2033以降」です。ISASが主導する計画のうち、年度の列に置かれているのは次の5件です。

ミッション区分想定年度(表の列)表・28ページに書かれた節目
MMX戦略的に実施する中型計画FY2026火星圏到着 FY2027・火星圏離脱 FY2030・地球帰還 FY2031
SOLAR-C主として公募により実施する小型計画FY2028定常運用(2年間)
DESTINY+主として公募により実施する小型計画FY2028アポフィスフライバイ FY2029・フェイトン到着 FY2031
JASMINE主として公募により実施する小型計画FY203128ページでは「※プリプロ候補」の注つき
LiteBIRD戦略的に実施する中型計画「2033以降」の列に「LiteBIRD(FY2036)」—

MMX の次に ISAS 主導で年度が置かれているのは、FY2028 の SOLAR-C と DESTINY+ です。

このほか、中型計画の欄には「NGSR(検討中)(2030年前半)」と「火星本星着陸探査STEP1(検討中)(2030年前半) ※国際宇宙探査センター所掌」が点線の枠で置かれています。小型計画の「OPENS-0(ECO&FAST)」は行の見出し欄にあり、年度の列には入っていません。28ページの「先10年に運用される想定の探査ミッション群」では、運用中の XRISM が「定常運用(3.5年延長)」と描かれています。

表には「戦略的海外共同計画」の行もあります。これは海外の機関が主導する計画で、表はどのロケットで上がるかを書いていません。

ミッション(海外共同)想定年度(表の列)
Roman 宇宙望遠鏡FY2026
RAMSESFY2028
DragonflyFY2028
Comet InterceptorFY2029
ArielFY2031

この5件のうち、当サイトの予定表に名前があるのは RAMSES だけで、「DESTINY+ & RAMSES」として H3-24 の行に載っています。これはLL2の登録値で、ロードマップに書かれていることではありません。

当サイトの予定表と突き合わせると、一致3件・未登録2件・表に無い1件

ISAS主導の5件を、当サイトの予定表(16件)と突き合わせました。予定表の時刻は日本時間に直し、会計年度に換算しています。

ミッションロードマップ予定表の打ち上げ時刻(NET・日本時間)精度状態判定
MMXFY20262026-10-20 04:41:03(H3-24)秒Go for Launch一致
DESTINY+FY20282028-04-20(H3-24・「DESTINY+ & RAMSES」)日未定一致
SOLAR-CFY20282028年11月(Epsilon S)月未定一致
JASMINEFY2031(無い)——未登録
LiteBIRDFY2036(無い)——未登録

一致したのは3件で、年度のずれはありません。JASMINE と LiteBIRD が無いのは、予定表のいちばん遠い便が2028年内の「ispace Mission 3 ULTRA」だからで、2031年度以降の便は1件も登録されていません。

逆向きに見ると、予定表に載っていてロードマップの表に無い ISAS 関連の便が1件あります。

予定表の便打ち上げ時刻(NET)精度状態ロードマップの表
H3-24 | LUPEX(月極域探査)2026年内年未定載っていない

LUPEX は本文で「SLIMの高精度着陸技術やLUPEX等の成果を活用し」と月面探査の文脈で触れられるだけで、27ページの年度表には出てきません。予定表の「2026年内」は精度が「年」の登録値で、JAXAが日付を発表しているわけではありません。

小型計画は「イプシロンSで10年に5回」、イプシロンの実績は2013〜2022年の6回

本編16ページのミッションカテゴリ表は、計画の区分ごとに使うロケット・規模・頻度を書いています。

戦略的に実施する中型計画 … ※基幹ロケット(H3クラス)での打上げを想定 … 規模 最大400億円程度/機 … 打上げ頻度 10年間に3回 (本編PDF 16ページ)

主として公募により実施する小型計画 … ※基幹ロケット(イプシロンS)での打上げを想定 … 最大180億円程度/機(ECO公募は最大100億円程度/機) … 10年間に5回 (本編PDF 16ページ)

区分想定ロケット規模の上限打ち上げ頻度の目標
戦略的に実施する中型計画基幹ロケット(H3クラス)最大400億円程度/機10年間に3回
主として公募により実施する小型計画基幹ロケット(イプシロンS)最大180億円程度/機(ECO公募は最大100億円程度/機)10年間に5回

この「10年間に5回」を、当サイトの実績と並べます。当サイトの集計で、機体の系列「Epsilon」は 6回(成功5・失敗1)、期間は2013年9月14日から2022年10月12日まで(約9年1か月)です。LL2 に登録された内之浦発のイプシロン6便は次のとおりです。

LL2の便名打ち上げ日(LL2・UTC)結果(LL2)
Hisaki (SPRINT-A)2013-09-14成功
ERG (ARASE)2016-12-20成功
ASNARO-22018-01-17成功
RAPIS-1 & others2019-01-18成功
RAISE-2 & others2021-11-09成功
RAISE-3 & others2022-10-12失敗

ここで比べているのは、イプシロン系ロケット全体の打ち上げ回数と、ロードマップが小型計画に置いた頻度目標です。6便のうち ISAS の公募型小型計画に当たるものが何件かは、この記事では判定しません。ロードマップが「小型科学衛星の1号機」と明記しているのは「ひさき(SPRINT-A)」だけで、残りの便の分類は当サイトがまだ一次情報で確かめていないからです。つまり「10年に5回」と「9年1か月で6回」は、同じものを数えた比較ではありません。ロケット全体の回数ですら、目標の頻度と同じ程度だった、というのがここで言えることです。

中型計画の側も同じ注意つきで並べておきます。当サイトの集計で H3 は 9回(成功7・失敗2)、期間は2023年3月7日から2026年8月10日までです。これも H3 全体の回数で、ISAS の中型計画の便だけを数えたものではありません。H3 で上がる ISAS 主導の便は、予定表では MMX(10月20日)が最初です。

前提はイプシロンSの復帰。空白は今日で1,456日、SOLAR-Cの予定まで行けば2,241日

ロードマップは、小型計画の衛星バス(衛星の共通部分)を新しくする話の中で、イプシロンSを前提に置くことを書いています。本編18ページです。

基幹ロケットのアンカーテナンシーとして、着実にイプシロンS搭載ができることを前提(打上げ能力に十分マージンを持った計画(軽量化)) (本編PDF 18ページ)

現行の小型科学衛星バスは、SPRINT(小型科学衛星)シリーズ計画の1号機として2013年に打上げられた「ひさき(SPRINT-A)」からのもの (本編PDF 18ページ)

打上げが高頻度ではない科学ミッションだけではロケット・衛星両側面をアンカーテナンシーとして支えることは困難 (本編PDF 18ページ)

「アンカーテナンシー」は、安定して使い続ける柱の顧客、という意味合いで使われる言葉です(この言い換えは当サイトによるもので、ロードマップの説明ではありません)。ISAS は、科学衛星を着実にイプシロンSに載せることを前提にしつつ、科学ミッションだけではその柱になれない、と自分で書いています。

そのイプシロンSは、まだ1回も上がっていません。開発中の イプシロンS Block1 は JAXA が2026年度の実証機打ち上げを目標にしている形態で、第2段モータの経緯と現在地は 9月22日の記事に書いたとおりです。ここでは書き直しません。

当サイトの集計で、イプシロン系の最後の便は2022年10月12日です。そこから数えた空白はこうなります。

区間日数
2022-10-12 → 2026-10-07(今日)1,456日(9月22日の記事の1,441日から15日進んだ)
2022-10-12 → 2028-11-30(SOLAR-C の予定表の値)2,241日

SOLAR-C の予定表の値は精度が「月」なので、2028年11月のどこかで上がるとすれば、空白は 2,212〜2,241日(約6年1か月)になります。ロードマップの「10年間に5回」は、この空白のあとに始まる頻度です。

予定表に載っているイプシロンSの便は2件です。

予定表の便打ち上げ時刻(NET)精度状態射点
Epsilon S | JV-LOTUSat-12026年内年未定Mu Center(内之浦)
Epsilon S | SOLAR-C2028年11月月未定Mu Center(内之浦)

JV-LOTUSat-1 の便がロードマップのどの区分に当たるかは、この記事の材料では分からないので書きません。予定表に載る名前と精度だけを示しています。

まとめると、ロードマップの年度表と当サイトの予定表は、重なる3件で年度が一致していました。その一方で、小型計画の頻度の前提になっているイプシロンSは、系列としての前回の打ち上げから1,456日が過ぎています。この記事で言えないことは次のとおりです。

当サイトは、JAXA がイプシロンSの打ち上げ日を発表したとき、または予定表の JASMINE・LiteBIRD の便が登録されたときに、この突き合わせを更新します。