JAXAが運営する宇宙戦略基金は2026年10月30日、民間ロケット向けの技術開発テーマ「民間ロケット打上げ実証加速化(STAND)」の採択結果を公開しました。採択されたのはインターステラテクノロジズ(IST)とスペースワンの2社です。ISTは11月2日に自社サイトで発表し、支援上限額は1社あたり120億円、事業期間は2031年3月まで(予定)と書きました。スペースワンは11月3日05時台の時点で、自社サイトに発表を出していません。
この記事では、基金が公開した採択結果と公募要領で制度の枠組みを整理し、公募要領にある「最大6回」「年間30件程度」という回数を、当サイトが集計している国内4射場の打ち上げ実績と並べます。結論を先に書くと、枠の最大12回(6回×2社)は、この2社が約8年7か月で国内から行った10回より多く、制度が引く「年間30件程度」に対し、当サイト集計の年間最多は2017年の8回です。
ヒーロー写真は大樹町多目的航空公園(2010年撮影)です。ISTの射場LC1やZEROの機体は写っていません。
採択結果は10月30日にPDFで公開、IST発表は11月2日、スペースワンは未発表
基金サイトの10月30日のお知らせは一文だけで、「「民間ロケット打上げ実証加速化(STAND)」の採択結果を掲載しました」とあります。リンク先のテーマページには、公募開始2026年5月15日、公募締切7月16日(正午)、一次審査(書面)7月中旬から9月上旬、二次審査(ヒアリング)9月25日(予定)、審査結果10月30日と並びます。公募開始から審査結果まで168日です。ページ上の表記は「審査結果」で、「採択日」とは書いていません。
採択結果のPDFは3ページで、1社1ページの「採択結果(1/2)」「(2/2)」と、審査会の構成員の参考ページです。
| 実施機関名(代表機関) | 研究代表者名 | 技術開発課題の名称 | 課題の概要 |
|---|---|---|---|
| インターステラテクノロジズ株式会社 | 中山 聡 | 国際競争力のある高頻度打上げサービス実現に向けた技術開発 | (契約締結・交付決定後に公表) |
| スペースワン株式会社 | 三井 龍一 | 民間小型ロケットの複数回打上げ実証と固体増強型ロケットの開発・実証 | (契約締結・交付決定後に公表) |
課題の概要が伏せられているのは公募要領の建付けどおりです。公募要領の8.(4)はこう書いています。
採択された技術開発課題については、実施機関名、研究代表者名、技術開発課題の名称及び概要、補助金交付決定額等を宇宙戦略基金事業ウェブサイトに公表します
つまり概要と交付決定額は、これから公表される情報です。審査会の座長(担当PO)は新谷美保子氏(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)で、委員は8名。PDFには「利益相反マネジメント規程に則り、審査委員は、利益相反がある技術開発課題についての審査をしていない」と注記があります。
ISTの11月2日の発表は、「支援上限額は1社あたり120億円、事業期間は2031年3月まで(予定)」とし、計画の中身をこう書いています。
STANDではこの技術を発展させ、2号機以降複数回の打上げ実証を通じて飛行データや運用実績を蓄積するとともに、継続的な設計改良、製造工程・運用の改善を実施します
同じ発表は、文科省のSBIRフェーズ3事業で「累計で交付上限額193.7億円の配分が決まっている」ことと、ウーブン・バイ・トヨタをリード投資家とする「シリーズFで計201億円の資金を調達」したことにも触れています。SBIRの193.7億円は10月10日の記事に書いた数字と一致し、今日のSTANDとは別の事業です。ISTの発表には、射場・打ち上げ日・もう1社の採択先への言及はありません。
スペースワンのニュース一覧(68件)は、11月3日05時台の時点で最新が2026年8月26日の「Sarmonyと衛星打上げに関する覚書を締結」で、STANDの発表はありません。2社目がスペースワンであることは基金のPDFで確認でき、日経(11月2日)も「スペースワン(東京・港)と共に採択」と書いています。なおスペースワンは、同じ基金の別テーマ「高頻度打上げに資するロケット製造プロセスの刷新」に2025年12月19日付で採択されており、2026年4月17日に交付決定額2,657,400,000円(補助事業課題名「ロボティクス技術を活用した固体燃料モータの製造プロセスの刷新」)を発表しています。採択から交付決定の発表まで、そのときは約4か月でした。
STANDの枠組み: 最大6回・1件120億円上限・2031年3月まで(予定)・失敗を繰り返せば中止
STANDは略称で、公募要領はこう説明しています。
STANDとは”S”truggles “T”oward “A”dvancement through a “N”umber of “D”emonstrationsの略称であり、民間ロケット事業者が打上げ失敗リスクに果敢に立ち向かい、開発を止めることなく挑戦を継続し、複数回の打上げ実証を通じて、国際競争力を有する輸送サービスを目指していくことを象徴しています
公募要領の主な数字を表にします。
| 項目 | 公募要領の記載 |
|---|---|
| 支援の形態 | 補助 |
| 支援総額(最大) | 240億円 |
| 1件あたりの上限 | 120億円(間接経費を含む) |
| 採択件数 | 2件程度(提案の数や内容に応じて増減することがある) |
| 実施内容 | 複数回(最大6回)の打上げ実証。宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)の人工衛星等の打上げ許可を取得して実施するロケット打上げ |
| 応募できる事業者 | 提案時に、打上げ許可を取得して実施したロケット打上げの実績が10回未満の民間ロケット打上げ事業者 |
| 補助率(ステージ1) | 大企業 3分の2、中小企業・スタートアップ等 4分の3 |
| 補助率(ステージ2) | 大企業 3分の1、中小企業・スタートアップ等 2分の1 |
| 目標 | 2030年代前半までに民間ロケットの国内打上げ能力を確保し、民間ロケット打上げ事業者を「2者以上創出」 |
補助率は「打上げ実証初期の補助率を高めに設定し、段階的に補助率を逓減」する設計です。ステージの区切りはステージゲート評価で、支援開始後3年目か、計画した打ち上げ回数を二等分した前半(最大3回)の最後の打ち上げ後か、どちらか早いほうを目途に行います。その結果しだいで、公募要領はこう続けます。
その結果によってはそれ以降の所要の事業期間分(最長2年。前半最後の打上げ実証が支援開始後3年目よりも早かった場合は、最長3年)の支援を可能とします
評価で支援を止める条件も書かれています。
同様の原因による打上げ実証の失敗を複数回に渡り繰り返すなど(中略)計画を継続する価値が著しく低いと認められる場合においては、支援の中止を判断するものとする
一方で、6回で打ち切りとは限らない記述もあります。公募要領が参考として引く「宇宙戦略基金実施方針 経済産業省計上分(令和8年2月25日)」は、「打上げ実証の回数を特に失敗率が高い6回までを上限として1件あたりの支援上限額等を設定している」としつつ、「ロケットの信頼性の成熟には、10回程度の打上げを要した事例があること等も踏まえ」、実施者が最大回数を越えて計画を変更できること、「真に必要と認められれば、1件あたりの支援上限額を越えた支援を可能とする」ことを書いています。
公募要領は、今日の2社がともに補助を受けている文科省SBIR(2社の採択は10月10日の記事に書いた)を「2027年度をターゲットに、衛星等の打上げが可能な民間ロケットの開発・飛行実証」と位置づけ、海外の例として「米国のVenture-Class Acquisition of Dedicated and Rideshareや欧州のFlight Ticket Initiative」を挙げています。ISTの発表はSTANDの対象を「2号機以降複数回の打上げ実証」と書いています。初号機がどの事業の対象かは、ISTの発表に明記がありません。スペースワン側の計画は、同社の発表が無いので書けません。
枠の最大12回は、2社が8年7か月で行った10回より多い
公募要領の「最大6回」に採択2社をかけると、STANDの枠は最大12回です。この2社がこれまでに国内の射場から行った打ち上げを、当サイトの集計で並べます。
| 射場(使用する社) | 回数 | 成功 | 失敗 | 期間(日本時間) | 機体 |
|---|---|---|---|---|---|
| 北海道スペースポート(IST) | 7 | 3 | 4 | 2017年7月30日〜2021年7月31日 | すべてMOMO(弾道飛行) |
| スペースポート紀伊(スペースワン) | 3 | 0 | 3 | 2024年3月13日〜2026年3月5日 | すべてカイロス |
| 2社合計 | 10 | 3 | 7 | 2017年7月30日〜2026年3月5日 | |
| STANDの枠(最大) | 12 | 2031年3月まで(予定) | ZERO 2号機以降(IST発表)/スペースワン側は未発表 |
2社の実績は10回中成功3で、これは10月10日の記事で公開した数字の再掲です。北海道の7回はすべてMOMOで、軌道投入をめざさない観測ロケットなので、軌道投入をめざした便に限ると3回中成功0(カイロス1〜3号機)、ISTの軌道投入の試行は0回です。約8年7か月(2017年7月30日〜2026年3月5日)で10回だった2社に、2031年3月までの約4年5か月で最大12回の枠がついた、という比較になります。ただし「最大」であって、2社が何回を計画して提案したかは、どの資料にも書かれていません。
最後の打ち上げからの日数も並べます。
| 節目 | 日付 | 2026年11月3日からの日数 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| スペースポート紀伊の最後の打ち上げ(カイロス3号機) | 2026年3月5日 | 243日前 | 当サイト集計 |
| 北海道スペースポートの最後の打ち上げ(MOMO) | 2021年7月31日 | 1,921日前 | 当サイト集計 |
| STANDの審査結果の公表 | 2026年10月30日 | 4日前 | 基金テーマページ |
| ISTが書いた事業期間の末 | 2031年3月31日 | あと1,609日 | IST 11月2日発表(予定) |
当サイトの打ち上げ予定表(LL2のキャッシュ、2026年11月3日4時47分・日本時間)では、ZERO初号機は「2027年」という年単位の精度で日付未定、射点は北海道LC1です。カイロス4号機は予定表の15件に入っていません。カイロス4号機の日程が未定であることは9月18日の記事、LC1の供用が2026年度末の予定で打ち上げ日が未定であることは10月17日の記事に書いたので、ここでは繰り返しません。
「年間30件程度」に対し、当サイト集計の年最多は8回
公募要領はSTANDの目標を、国の基本方針の引用で書いています。
基本方針で定められている「2030年代前半までに、基幹ロケット及び民間ロケットの国内打上げ能力を年間30件程度確保」に向けて、2030年代前半までに、民間ロケットの国内打上げ能力の確保を目指します
「基幹ロケット及び民間ロケット」の合計なので、当サイトが集計している国内4射場の全件(H3・H-IIA・イプシロンなどの基幹ロケットと、民間のMOMO・カイロス)と比べられます。1966年以降の暦年で、打ち上げが5回以上あった年は6年です。
| 年(日本時間) | 回数 | 成功 | 失敗 |
|---|---|---|---|
| 2006 | 6 | 6 | 0 |
| 2017 | 8 | 6 | 2 |
| 2018 | 7 | 6 | 1 |
| 2020 | 5 | 4 | 1 |
| 2021 | 5 | 5 | 0 |
| 2024 | 7 | 5 | 2 |
最多は2017年の8回で、この8回にはMOMO初号機(2017年7月30日・弾道飛行)が含まれます。2016年から2025年の10年の合計は48回(4・8・7・4・5・5・1・3・7・4)で、年平均4.8回です。この48回のうちMOMOは7回なので、軌道投入をめざした便だけなら41回、年平均4.1回になります。2026年は10月23日の集計時点で4回(成功3・失敗1。3月5日のカイロス3号機から10月20日のMMXまで)です。
「年間30件程度」は、当サイト集計の年最多8回の3.75倍、10年平均4.8回の6.25倍にあたります。これは目標と実績の開きを示す比較であって、STANDの2社だけで埋める数字ではありません。基本方針の目標には基幹ロケットも含まれ、当サイトの集計には、STANDの対象外である基幹ロケット(H3・H-IIA・イプシロンなど)の便も入っています。
言えないこと: 交付決定額・応募件数・各社の回数計画・ZEROの日付
次に動くもの: 交付決定(審査結果から約2か月後の予定)とスペースワンの発表
公募要領の提案締切後のスケジュール(予定)は、「審査結果の通知・発表 10月頃」「技術開発開始予定日(補助金交付決定日) 審査結果の通知・発表から約2か月後」です。審査結果は10月30日に出ているので、予定どおりなら年内に交付決定が来ることになりますが、公募要領はこれを予定と明記しています。交付決定が出れば、公表ルールに沿って課題の概要と補助金交付決定額が基金サイトに載り、そこで初めて2社の回数計画の輪郭と、上限120億円に対する実際の額が分かります。
当サイトが次に確認するのは3つです。スペースワンのサイトにSTANDの発表が出るか、基金サイトに交付決定額が載るか、基金の「採択結果・事業一覧」にSTANDの2件が並ぶか。採択された2社の国内実績は、今日時点で10回中成功3、軌道投入は3回中0のままで、紀伊から243日、北海道から1,921日、どちらの射場にも次の日付はありません。