JAXAは2026年9月9日、開発中の技術試験衛星9号機(ETS-9)の愛称を「きく9号」と発表しました。打ち上げはH3ロケットの予定で、当サイトの予定表には「2026年・年単位・日程未定」で載っています。打ち上げ日は、2026年9月19日時点でどこにも出ていません。10月23日に見直した時点でも同じで、そのときの確認結果は末尾に追記しました。
この記事は、「きく」の名を継ぐ8機が当サイトの集計のどこにいるか、9号が乗る予定のH3-22形態の実績はどうか、そして予定表の「2026年」とJAXA資料の「2026年度」がどう違うかを整理するものです。きく9号がいつ上がるかは、この記事では言えません。
9月9日に「きく9号」と決まった
JAXAの発表は、命名の理由を逐語でこう書いています。
初代「きく1号」を打ち上げたのは1975年9月9日。その記念すべき日に、日本の宇宙開発の歴史と共に歩んできた「きく」の愛称を受け継ぐ新たな衛星として、「きく9号」と命名しました
「きく」の由来は、初代の打ち上げ日である9月9日が五節句の「菊の節句(重陽の節句)」にあたることだと同じ発表にあります。きく1号の打ち上げから愛称発表まで、ちょうど51年です。
発表が挙げる実証技術は4点です。全電化衛星技術、フルデジタル通信ペイロード、大電力化・高排熱技術、静止GPS受信機を用いた自律的な軌道制御技術。衛星の諸元は、2025年12月16日に文部科学省の宇宙開発利用部会へJAXAが出した資料と、プロジェクトページから拾えます。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| ロケット | H3-22L | 部会資料 p.6 |
| 打上げ質量 | 4.9トン以下 | 部会資料 p.6 |
| 軌道 | 静止軌道(高度約36,000km) | プロジェクトページ |
| 設計寿命 | 静止化後15年 | 部会資料 p.6 |
| 発生電力 | 25kW(寿命末期)、ペイロード電力20kW以上 | 部会資料 p.6 |
| 軌道制御 | 全電化推進システムで、打上げから寿命末期まで軌道制御 | 部会資料 p.6 |
| 打上げ時期 | 「2026年度以降」 | プロジェクトページ |
前のきく8号は打上げ質量約5.8トンでした(JAXAのきく8号ページ)。9号は4.9トン以下で、質量は前より小さくなっています。
きく1号から8号は、当サイトの集計ではぜんぶ「区切りの便」だった
「きく」を名乗る衛星は、JAXAの過去のプロジェクト一覧ときく8号のページによると、これまで8機あります。この8機の打ち上げ日を、当サイトが集計している機体別・年別の最初と最後の便の時刻と突き合わせたところ、8機中8機が一致しました。
| 衛星 | 打ち上げ日(JAXA) | ロケット(JAXA表記) | 当サイト集計での位置(LL2の時刻・日本時間) |
|---|---|---|---|
| きく1号(ETS-I) | 1975-09-09 | N-Iロケット1号機 | N-I の最初の便(14:30)。種子島の第1便 |
| きく2号(ETS-II) | 1977-02-23 | N-Iロケット3号機 | 1977年の最後の便(17:50) |
| きく3号(ETS-IV) | 1981-02-11 | N-IIロケット2号機(N8F) | LL2の N-II 系列の最初の便(17:30) |
| きく4号(ETS-III) | 1982-09-03 | N-Iロケット7号機(N9F) | N-I の最後の便(14:00)。1982年の唯一の便 |
| きく5号(ETS-V) | 1987-08-27 | H-Iロケット試験機2号機(H17F) | 1987年の最後の便(18:20) |
| きく6号(ETS-VI) | 1994-08-28 | H-IIロケット試験機2号機 | 1994年の最後の便(16:50) |
| きく7号(ETS-VII) | 1997-11-28 | H-IIロケット6号機 | 1997年の最後の便(06:27) |
| きく8号(ETS-VIII) | 2006-12-18 | H-IIAロケット11号機 | H-IIA 204形態の最初の便(15:32)。2006年の最後の便 |
きく3号が ETS-IV で、きく4号が ETS-III です。JAXAの一覧がそう書いているので、そのまま載せています。きく3号の便について、JAXAは「N-IIロケット2号機」と書き、LL2は N-II 系列の最初の便として登録しています。なお、JAXAの同じ一覧は1981年8月11日の「ひまわり2号」の便も「N-IIロケット2号機(N8F)」と書いており、2つの便に同じ表記が付いています。号機の数え方が食い違っている理由は、当サイトでは確認できていません。
ただし、きく2・4・5・6・7号が上がった年は、当サイトの集計で国内の打ち上げが1〜3回しかありません(1977年2回、1982年1回、1987年3回、1994年2回、1997年2回)。その年の最初か最後の便になるのは珍しいことではなく、8機が区切りに並ぶことに意味づけはしません。
この表から、当サイト集計の数字をいくつか引き出せます。
- 種子島の第1便がきく1号です。当サイト集計の種子島は、この便から2026年8月11日のみちびき7号機まで99回、成功94・失敗5です
- きく1号ときく4号は、N-I(7回・成功6・失敗1、1975年9月〜1982年9月)の最初と最後の便です
- きく8号は、H-IIA 204形態(5回中5回成功、2006年12月〜2021年12月)の最初の便です
打ち上げ場所は、JAXAの過去のプロジェクト一覧ときく8号のページが8機とも種子島宇宙センターとしています。当サイトの集計には「便ごとの射場」の項目が無いので集計の側から1便ずつは確かめられませんが、8機が乗った N-I・N-II・H-I・H-II系(H-IIAを含む)の4系列に、当サイト集計で種子島の便である H3(きくはまだ乗っていない)を加えた合計は 7+8+9+66+9=99回で、種子島の99回と一致します。残る53回は Mu・MOMO・イプシロン・ラムダ・カイロス・S系列の合計で、内之浦43回、北海道7回、紀伊3回の合計と一致します。
9号が乗るH3-22は7回中失敗2、H3の失敗は両方この形態
きく9号のロケットは、部会資料で「H3-22L」と書かれています。当サイトの集計でH3を形態別に分けると、こうなります。
| 機体形態 | 打ち上げ | 成功 | 失敗 | 期間(日本時間) |
|---|---|---|---|---|
| H3-22 | 7回 | 5 | 2 | 2023年3月〜2026年8月 |
| H3-24 | 1回 | 1 | 0 | 2025年10月 |
| H3-30 | 1回 | 1 | 0 | 2026年6月 |
| H3全体 | 9回 | 7 | 2 | 2023年3月〜2026年8月 |
H3の失敗2件は、2023年3月7日のALOS-3(初号機)と2025年12月22日のみちびき5号機で、当サイト集計の機体名はどちらも「H3-22」です。つまりH3の失敗はいずれも、きく9号が乗る予定の形態で起きています。一方でH3-22は直近のみちびき7号機(2026年8月11日)を含めて5回成功しており、母数7回から形態の性質を言うことはできません。
この記事のあと、2026年10月20日にH3ロケット10号機(MMX・H3-24形態)が上がり、JAXAは打ち上げから約1時間11分13秒後にMMXを正常に分離したと発表しました。この1件を当サイトが足すと、H3全体は10回(成功8・失敗2)、H3-24は2回(成功2)です。H3-22の7回(成功5・失敗2)は変わらず、H3の失敗2件がどちらもH3-22という点も同じです。
この表は打ち上げの成否の母数であって、日程が動いたかどうかの母数ではありません。「H3-22は延期しやすい」とも「しにくい」とも、ここからは言えません。
参考として、H3の打ち上げ間隔を出しておきます。初号機(2023年3月7日)から9号機(2026年8月11日)までは1,253日で、間隔は8つ、1つあたり156.6日です。これは9回の平均であって、次の便がいつ来るかを示す値ではありません。10号機(2026年10月20日)まで延ばすと1,323日・間隔9つで、1つあたり147.0日です。
「2026年」と「2026年度」は同じではない
当サイトの予定表で、きく9号(ETS-9)はこう載っています。
| 項目 | 予定表の値 |
|---|---|
| 名前 | H3-22 | ETS-9 |
| 打ち上げ時刻(NET) | 2026-12-31 00:00 UTC |
| 精度 | 年 |
| 状態 | 未定(To Be Determined) |
| 射点 | 種子島宇宙センター 吉信第2射点 |
精度が「年」なので、12月31日という日付に意味はありません。LL2は日付を決められない便に、その年の末日を仮置きする運用をしていると当サイトは見ています。これは【推定】で、LL2の文書で確認したものではありません。
一方、JAXAの部会資料は打ち上げ時期をこう書いています。
開発スケジュール(衛星としての打上げ準備完了): 2025年度⇒2026年度
「打上げ準備完了」であって「打上げ」ではありません。プロジェクトページの「2026年度以降」も同じです。日本の年度は翌年3月末までなので、予定表の「2026年」(12月31日まで)とJAXAの「2026年度」(2027年3月31日まで)は、末日が3か月ずれています。9月19日から数えると、12月31日まで103日、2027年3月31日まで193日です。
準備完了の目標が1年度後ろへ動いた理由は、同じ資料の11ページにあります。
2024年度に、クリティカルパスとなっていたアクティブ熱制御系サブシステム(ATCS)において、海外ベンダにおける製造遅延が発生し、システム引渡し時期が遅延した
資料によると、遅れていたATCSは製造と試験を終えてシステムに引き渡し済みで、2025年5月から三菱電機鎌倉製作所でシステムプロトフライト試験が始まり、初期電気試験と機械環境試験を完了しています。残るのは熱真空試験、最終電気試験、電波暗室試験などです。
計画変更審査は、2017年5月の開発着手以降で3回です(2021年2月、2023年11月、2025年10月)。2023年11月の審査は「打上げ時期の変更」を含み、2025年10月の審査は「開発スケジュールの遅延を踏まえてプロジェクト計画を見直し」たものです。マイナビニュースによると、打ち上げ目標は当初の2021年、2023年、そして2025年度、2026年度と動いてきました(「2021年」「2023年」はマイナビの表記で、同じ記事の別の箇所は当初の目標を「2021年度」とも書いています)。ただし当サイトがJAXAの資料で確認できたのは審査の年月と「2025年度⇒2026年度」の後ろ倒しだけで、「2021年」「2023年」という値は報道によるものです。
資料には外部評価員のコメントも載っています。
当初計画の時期に打上がっていれば、更に大きなインパクトがあったと思われる
更なるスケジュール遅れはアウトカム目標に影響しかねない
なお、ロケット側がH3の何号機になるかは、今回開いたどの資料にも書かれていません。
いつ決まるか、何を見れば分かるか
打ち上げ日が確定するのは、JAXAのプレスリリースに「H3ロケット○号機による技術試験衛星9号機の打上げ」が出た時点です。その発表が出るまで、ロケットの号機も日付も決まっていないものとして扱います。
2026年9月19日時点で見た範囲は、こうです。
| 見た場所 | きく9号の打ち上げ日について | 確認日 |
|---|---|---|
| JAXA プレスリリース一覧(2026年) | 無し。9月の掲載は9月2日(GOSAT-GW)と9月14日(特別展)の2件 | 2026-09-19 |
| 三菱重工 ニュース一覧 | 2026年8〜9月にH3・ETS-9関連の発表は無し | 2026-09-19 |
| JAXA サテライトナビゲーター(ETS-9 タグの一覧) | 2026年にETS-9のタグが付いた掲載は3件(4月28日の「技術試験衛星、半世紀の軌跡」展、5月27日の「きく2号」航空宇宙技術遺産認定、9月9日の愛称決定)で、打ち上げ日に触れたものは無し | 2026-09-19 |
| 当サイトの予定表(11件) | 年精度・未定 | 2026-09-19 4:47 取得 |
9月19日の予定表では、打ち上げ時刻が2026年に入っているH3の便は5件でした。秒まで決まっていたのはMMX(10月20日)だけで、ETS-9、HTV-X2、HTV-X3、LUPEXの4件は年精度・未定。5件のうちH3-22形態はETS-9だけで、ほかの4件はH3-24でした。10月23日に取得したLL2の予定(15件)では、MMXは打ち上げを終え、HTV-X2とHTV-X3は2027年(年精度)に移っています。2026年に残るH3の便はETS-9とLUPEXの2件で、どちらも年精度・未定です。
MMXが上がった10月20日から12月31日までは72日です。72日はH3の平均間隔(9号機までで156.6日、10号機までで147.0日)より短い数字ですが、MMXの次のH3が72日以内に上がるかどうかは、当サイトの集計から言えることではありません。「年内に上がる」とも「上がらない」とも、この記事は書きません。
打ち上げ日の発表が出たら、当サイトはそれを「初回発表日」として記録し、この記事に追記します。愛称が決まってから打ち上げ日が決まるまで何日かかったかも、そのときに1件の記録として残ります。